CAST

 理科離れが進んでいると言われて久しい日本。そんな中、東京大学サイエンスコミュニケーションサークルCASTは、科学の面白さを小・中学生、ひいては高校生・大人まで多くの人に伝えるべく活動を行っています。今回は、代表の西口大貴さんと副代表の藤垣洋平さんにお話を伺いました。


―CASTは何をしているサークルなのですか?

CAST

西口 最近の活動としては、小学校などに出向いて科学イベント、例えば実験教室や、簡単なサイエンスショーといったものを行なったり、小学校に限らず、幕張メッセなどで行われる大規模な科学イベントの一ブースとして実験を見せたり、この夏に安田講堂で行われたシンポジウム(編註:2010年夏に行われた「国際科学オリンピックシンポジウム」のこと。)の中でサイエンスショーをやったり、あとは、科学に関連した読み物を書くライティング活動などもやっています。他にも、サイエンスカフェ、これは講師の先生を呼んで科学の話をしてもらうものなのですが、その場で、参加者が気軽に質問できるように雰囲気作りをする、というのもCASTの活動の一つですね。

 普段の活動としては、科学のイベントの依頼が月に2, 3件ぐらい入ってくるので、その準備とかがメインになっています。他には、1年生が積極的になってやっている実験開発もありますね。

藤垣 あと、駒場祭・五月祭に向けては、通年何かしら動いていますね。

西口 また、実験総会という名の総会が月に1回あって、実験を各自持ち寄って議論したり、何か決めなきゃいけないことがあったら決めたり、それぞれの普段の活動、例えばこの小学校に出張授業行きました、といったことの報告をしたりしています。

―CASTは最近結成されたばかりのサークルとお聞きしましたが。

CAST

西口 そうですね、CASTは2009年2月にできたサークルです。そもそも主題科目で、滝川洋二先生と林衛先生が講師を務められた「心を動かす表現法」というゼミがあって、科学を伝えること、つまり「サイエンスコミュニケーション」について議論したり、好きな科学の読み物についてお互いに発表したりして、最後はサイエンスカフェやサイエンスショーといったイベントを行ったのですが、このゼミのOBが中心となって、ゼミが終わってからもこういう活動を続けていきたいな、と思って結成されたのが、この東京大学CASTなんですよ。

藤垣 滝川先生は、TVドラマ『ガリレオ』や映画『容疑者Xの献身』の実験監修をされた方で、最近では、色々なドラマの科学考証とか、実験監修とかをされています。あと、『世界一受けたい授業』とか『平成教育委員会』とか、そういった類のバラエティにも最近出ていらっしゃいます。林衛先生は岩波書店『科学』の元編集者で、現在は富山大学の准教授を務められ、サイエンスコミュニケーションの研究をされているんですよ。

西口 CASTは最初、滝川先生と林先生のゼミのサポートみたいなことをやっていたのですが、次第にサイエンスショーを見に来たお客さんとのつながりなどからいろんなイベントに呼ばれるようになって、ブース形式の実験とか実験教室とかを行うようになりました。駒場祭では、駒場小学校の人に声をかけられて、それから駒場小学校への出張授業なんかも始まりましたね。

―「サイエンスショー」とはどのような活動ですか?

西口 ショーにも色々あって、例えば各地の科学館でよくやってるのは、普通に実験を見せる、という形式のものが多いですが、CASTがやってるのは、ドラマ形式のいわゆる「サイエンス"ドラマ"ショー」が多いですね。実験をただ見せるだけではなくて、全体がストーリー性をもった劇になっているわけです。ショーを見に来てくれる人の中には、親子連れで来るお客さんも多いのですが、小学生ぐらいならまだ実験の内容も分かるものの、三歳とかだと実験内容がよく分からないかもしれない。でも、ストーリー仕立てになっているから、そういう子が見ているだけでもにこにこ楽しんでもらえるようになっているんです。つまり、CASTのサイエンスショーはあらゆる層の人が楽しめるように、もちろん原理の説明は省きませんが、ストーリー仕立てになっているんです。たとえば、この前渋谷の電力館でやったショーだと、二人組のスパイが敵のアジトから脱出しようと奮闘し、光通信を使って脱出しようと試みるのですが、結局失敗してしまう、というストーリーでショーを上演しました。これがCASTのサイエンスショーです。

―CASTの代表的なサイエンスショー『宇宙観(そらみ)る』とは?

CAST

西口 2009年5月に、IPMU(数物連携宇宙研究機構)の村山斉先生を呼んで、サイエンスカフェをやったのですが、それを元にゼミの中で滝川先生と林先生と一緒に作ったショーが『宇宙観る』です。夏に行われた「国際科学オリンピックシンポジウム」でも上演しました。どういう内容かといいますと、暗黒物質(ダークマター)と暗黒エネルギー(ダークエネルギー)について、中学・高校の物理を使って、簡単に順序立てて説明していくという内容です。最先端の研究テーマである暗黒物質なんかでも、一つ一つ細かいこと、小学生くらいでもなんとか分かるかなという実験を積み重ねれば説明できる、ということを伝えるのが目的です。

藤垣 そうそう、高校物理をつなぎ合わせて、最先端の暗黒物質につなげる。例えば力学とか波動とか電磁気とか、その辺が全部混ざって、宇宙に繋がっているんだよ、って。

西口 だから学校の勉強というものに対する意識の向上も目指しているんです。

藤垣 そう、学校の勉強は計算だけかと思いきや、実は広がりがあるんだよ、ということを伝える、という狙いもありました。最初は高校生向けに作っていたのですが、後々CASTで色々な場所で上演していくために、ショーのようなイベントは小学校からも依頼が来ることを踏まえて、小中学生でも分かるくらいの内容にちょっとずつ変えていこう、ということになったんです。

西口 やはり実験とかショーとか、こういった科学イベントは小学校の需要がすごく多いみたいで、中高からの依頼って実は全然ないんです。だから中高からの依頼も受け付けてますよ(笑)。

藤垣 中学生・高校生ほど面白いと思うし、理科を勉強するモチベーションとしても、このショーは重要だと思います。ショーには、小学生が親に連れられてくる、というのがやはりパターンとしては多いのです。七五三という言葉があって、理科好きな子供が、小学生七割、中学生五割、高校生三割、という風にだんだん減っていっちゃう、という意味なのですが、だいたいそういうイベントに来る小学生は、もうその曲線に乗っちゃってるわけだから、できればもうちょっと中学・高校にもアプローチしたい、という事情があるので、物理オリンピックみたいに難しい問題を、高校レベルの問題と絡めてショーをやるのが、まあ『宇宙観る』の元の形、というわけです。

―「出張授業」とはどのような活動ですか?

藤垣 出張授業は、2009年12月から始まって、駒場生中心でやっているプロジェクトです。駒場祭で駒場小学校の方に声を掛けられて始まったプロジェクトですね。

西口 びっくり。去年の夏学期は何もなかったんです。今年の五月祭を契機に、またどかっと一気にイベントが増えたんです。実は、設立メンバーがCASTでやろうとしていた案の中に、出張授業というのは上がっていなくて、一番やりたいと思っていたのは、サイエンスショーだったんです。サイエンスショーは出来立てのサークルが独自にやるような予算の額じゃできない、というわけで、ゼミのサポートをしながら徐々に規模を拡大していけたらいいね、という話になっていたんです。だから最初は出張授業というのは考えてなかったんですね。

藤垣 CASTでは現在、駒場キャンパスに隣接している目黒区立駒場小学校を中心に、いろんな小学校で理科の出張授業、つまり理科教室ですね、を行っています。今は小学校だけですが、ゆくゆくは中学・高校にも拡大していきたいところです。(編註:この取材の後、中学生を対象とした実験教室にも参加することが決まったとのことです。)出張授業では、毎回何らかのテーマを決めて、数人のグループで実験道具を持って学校へ伺い、子どもたちと一緒に実験や工作を行います。今まで実施したテーマとしては、『えっ!?消える○○!』、『あれも電池?これも電池?』、『しおってなあに?』、『○○○を飛ばそう!めざせライト兄弟!?』などがあります。子どもたちにも大人気のプロジェクトですよ。

―「サイエンスカフェ」とはどのような活動ですか?

CAST

西口 カフェというものの定義についていうと、今いろんな形式が乱立していて、カフェといいつつも、普通の講演会じゃねぇかよ、みたいなものをやっていたりだとか、サイエンスカフェと言って理学部が2年生向けのガイダンスをやっていたりしますが、……まああれはケーキで学生を釣ろうとしてるだけなんですが(笑)。

 それで、「サイエンスカフェ」についてですが、そもそも「科学を伝える」と言ったときに、何か一方通行なイメージを持ちませんか? 専門家から市民へ、っていう方向性です。でも、「サイエンスコミュニケーション」には、市民の科学技術に関する捉え方とか考え方とかというものを、専門家にフィードバックするっていう方向性も含まれていて、それが一番よく表れているのが「サイエンスカフェ」なのです。例えば20人の来場者と専門家がいて、専門家はパワポとかを使った説明をして、来場者はそれに対して“気軽に”質問をする、そういった感じで、市民の考えを研究者にフィードバックできるように、市民と専門家の間を橋渡しするというのがサイエンスカフェでのCASTの役割です。

 つまり、お茶でも飲みながら、気楽な雰囲気で気軽に専門家の話が聞けるのがサイエンスカフェです。講演会をお茶とかケーキを食いながら聞いていたら、なんだあいつは、みたいな感じになりますよね?(笑) そんなのではなくて、むしろ発表する側も気軽な雰囲気で、お茶とか飲みながら気楽に話ができる、ラフな雰囲気でもって科学の話ができる、というのがサイエンスカフェです。

 そしてその仲介役、媒介として、来場者が質問しやすいような雰囲気作りをしたりだとか、話や議論の流れをあらかじめ想定しておいて、その流れにそって質問とかが進むように調整したりするのが、サイエンスコミュニケーターの役割というわけですかね。

―「ライティング」とはどのような活動ですか?

藤垣 ライティングはそうですね、今までCASTでもちょろちょろっと色々やってきたのですけれども、科学の面白いトピックやニュースなどを、みんなが興味を持てて、かつ理解できる文章にまとめる活動です。ショーほど大きな発表はまだやってないですね。最初にライティングでやったのが、サイエンスショー『宇宙観る』のパンフレット作りで、40ページぐらい、様々な宇宙に関するトピックの紹介をしました。

 ライティングプロジェクトの中には、本の出版計画もあります。『宇宙観る』がけっこううまくまとまったから、本もやってみないか、と滝川先生の方から言われまして、現在は色々とその話を進めているプロジェクトです。本当に動きの遅いといいますか、イベントみたいに、いつまでにこれ仕上げるとかいったことはないので、まだあまり進んでいないプロジェクトです。

西口 練れば練るほどいいのができるからね。

―五月祭や駒場祭ではどのような活動をしているのですか?

CAST

西口 五月祭や駒場祭では、ブースを出して、いろんな実験を見せたり、実験を体験してもらったり、工作をやってもらったり、もちろん科学実験としての工作ですが、あとは配布実験ですね。実験セットを配布するというのをCASTではすごく重要視しています。もちろんお金はかかるのですが、その場で見て、わーすごい、だけだと、そのうち印象が薄れてしまいますよね。やはり実験セットを持って帰ってもらうことで、時々遊ぼうかな、という気になって印象にも残るだろうし、家族とか友達とかに見せたり、自分で原理について説明したりするというプロセスによって、また「サイエンスコミュニケーション」が生まれるわけです。

藤垣 関心も継続的になってくれると思うしね、一回見るだけよりは。

西口 あと、駒場祭ではブース形式でやってるだけでよかったのですが、五月祭では学部・学科の企画がけっこういっぱいあるわけで、その中でブース形式をやったところで、まあ負ける、と(笑)。そういうわけで、CAST独自の色を出していかないといけないだろうということで、五月祭ではショーをやりました。やはり、五月祭ではああいうショーをやっている団体は他にはないので、実際にやってみたところ、子供や親子連れにはすごくウケていました。理物の教授が親子連れで来てたりしていました(笑)。結果として五月祭は大盛況で、メディア各社にも取り上げていただきました。

―先程から話が出ている「サイエンスコミュニケーション」とは一体どのようなものなのでしょうか?

西口 サイエンスコミュニケーションとは、科学の面白さや社会の中での役割などを、科学者だけでなく多くの人との間で伝えあうことです。私は実験を見せることが好きなので、私自身が好きなので、CASTにいるのですが、実験を見せて何を伝えるかというと「わーすごい」ではなくて「なんでそうなるか」ということなのです。そこが科学だから。私は実験を、科学の原理とか原則、法則といったものを伝えたいと思いながらやっているんです。

 子供たちは、最初、現象とか実験とかを見て「わーすごい」ってびっくりした顔をしますが、その後、原理を知って、現象を理解したときに、なんというか、驚いた顔とは違って、納得した顔というか、いい顔をするんです。その顔が好きだから、私はCASTをやっているんです。

 科学の面白さを伝えるにも色々な手段があって、実験教室やショーは実験を通して、ライティングは文章を通して、カフェは研究者の話を通して、といったように、いろんな手法を通して、取りあえず目的としては科学の面白さ、科学の便利さを伝えるということを目標にして、そのための手段は何でもいい、……何でもいい、というのは悪い意味に取らないでくださいね(笑)、いろんな手段があるから、みんな関心がバラバラだから、やりたいように、といいますか、各々の関心に合うように、色々なサイエンスコミュニケーションの活動を行っているわけですね。

―最後に、読者へのメッセージをお願いします。

CAST

西口 CASTは独自に自分のやりたいことをやっているサークルだと思います。

藤垣 取りあえず、企画・アイデアがあれば、どんどん新しいことが、何でもできます。サイエンスコミュニケーションって意味がすごく広いですからね。

西口 科学が、たとえば自分が今科学が好きだったら、なんで自分がその科学が好きか、ということを考えてみてください。たぶん、昔、科学のイベントとかで実験なんかを見て、もしくは本とかを読んで、科学を伝えられる側としてサイエンスコミュニケーションされて、科学に興味をもったんだと思うんです。そういう体験を今度は自分が与えることができるというのは、科学への恩返しみたいな感じで、すごくいい。自分自身いい体験になると思います。楽しいし。科学は楽しいし、科学を伝えることも伝えられることも楽しい。

藤垣 私が今思っていることに、将来、バリバリの理科系に進まない人こそCASTに来て欲しいかな、っていうのがあります。さっき中学生とか高校生とか言いましたが、とても物理とか化学とかが得意じゃなくて、なんかつまんないなー、と思っている人でも、そんな難しい計算とかができなくても、科学の世界はこんなに広がってるんだよ、ということを、物理の中だけでもいろいろつながっているし、日常と最先端なんかも実はつながってるということを伝えることで、そんなにバリバリの専門家にならない人にも、つながりを感じてもらって、科学に対してポジティブな印象を持ってもらいたいと思っています。

西口 私がCASTで活動してる理由はもう一個あります。自分が科学を研究する立場に立った時、やはりその自分の研究を伝えていかなければなりませんが、今やってることは、その練習にもなる、と思うんです。

 研究者は一般世間からすごく離れているイメージがありますよね。そして、そんな研究者の立場に立つ東大の学生はやはり多いと思うんです。このサークルが東大にある意味はそこにもあると私は思っていて、将来、このCASTで実践したこと、サイエンスコミュニケーションに対する理解が、自分が研究者になったときに、すごく役に立つんじゃないかな、と思います。サイエンスカフェとかに自分が出向いて話をするとか、そういうモチベーションになるかもしれませんね(笑)。伝え方って大切だし、学会発表とかでも必要になりますよね。

藤垣 今CASTには文系がいないのですが、本当は科学をバリバリやる人だけではなくて、もっと理系の複雑な実験とかができない人でも、つなぎ手になりたいって人が増えてくれるといいな、と思っています。文系歓迎です(笑)。

西口 CASTは理系団体にしては珍しく、いろんな専門の人がいるというのも特徴だと思います。つまり、外部に対してだけではなく、サークルの中でもサイエンスコミュニケーションが成り立っている、というわけです。総会とかに行っても、いろんな視点から科学を見つめることができます。

藤垣 素朴に疑問を色々もってきてくれたり、科学の架け橋になってくれる人、大募集です。ぜひCASTに入ってみてください。


あとがき

 科学を伝える。ただ一方的に伝えるのではなく、双方向的に科学を伝え合う。そして自分が科学を伝えた相手が、また他の人に科学を伝えていく……。お話を伺っていく中で、サイエンスコミュニケーションに対する私の認識は大きく変わりました。今後も東京大学CASTは、多くの人と科学を伝え合っていくことでしょう。

リンク

東京大学CAST:http://ut-cast.net/

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掲載日:11-04-17
担当:松本周晃
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