尺八部

 みなさんは和楽器を演奏したことがありますか? 日本の伝統的な楽器は洋楽器に比べれば触れる機会は少ないかもしれません。しかし和楽器の音色の美しさにふとひかれる人は多いものです。今回は日本の伝統的な楽器の一つ、尺八に焦点をあて東京大学尺八部の部長(インタビュー当時)さんにお話を伺いました。


―そもそも尺八とはどんな楽器ですか?

尺八部

 尺八は竹でできた楽器です。尺八というだけに1尺8寸、つまり54cmくらいの長さのものが一番スタンダードな尺八です。穴は裏に1孔、表に4孔あります。音として一番近い楽器はフルートだと思うのですが、フルートとは技巧によって微妙に音の感じが違います。その微妙な音の味わいを出していくのがなかなか難しいのですが、私たちの腕の見せ所でもあるかと思います。

―尺八の楽譜を見せてくれました。

 こちらが楽譜で、カタカナで書かれています。尺八の基本は日本の音階で、表があって日本の音階とドレミファソラシドを対応させています。最初は読んでも意味がわからないと思いますし、こういう楽譜は尺八にとっつきにくい原因の一つだと思うのですが、読み慣れてしまえば問題ありません。私は五線譜があまり得意ではないので、言葉の方が読みやすくわかりやすいくらいです。

―尺八部について紹介をお願いします。

尺八部

 尺八部ができたのは1919年です。毎週木曜日の15〜21時に駒場キャンパスの柏蔭舎で活動しています。定期的に活動している部員は今のところ15人くらいで、演奏会は、五月祭・駒場祭・定期演奏会の年3回行っております。

―活動は1年生、2年生が中心ですか?

 私たち2年生が中心でやっております。活動が通常駒場なので、本郷に行ってしまうとなかなか執行や運営に関わることができないためです。ですが、演奏技術の面では、聴かせるような上手な演奏ができるようになるのはむしろ3年目くらいからと言えるかもしれません。

―師範の先生について教えてください。

 現在の師範は琴古流の松山龍盟先生です。松山先生は、故人間国宝の山口五郎師に師事され、現在は尺八団体竹盟社の講師としてご活躍なさっています。非常に暖かいお人柄で、いつも笑顔を絶やさず基礎から丁寧にご指導くださいます。入部前は、伝統芸能の世界の師弟関係はさぞかし厳格なのだろうと覚悟していたので、初めてお会いしたときには、その穏やかなご様子に拍子抜けしてしまったくらいです。尺八部普段はそのような親しみやすい先生ですが、お稽古や舞台でご演奏なさる際には、一転としてぴりっとした緊張感をまとわれるので、私たちもその清澄な音色を聴きながら、自然と居住まいを正してしまいます。私が申し上げるのも差し出がましいようですが、他の尺八奏者と聴き比べても、松山先生は圧倒的に素晴らしい演奏をなさいます。部員も、部活動という以前に、個人的に先生を慕って通ってきている人が多いように思います。

―部長さんが尺八を始めようと思ったきっかけは何ですか?

 祖父が尺八をやっておりまして、昔から何となく気になる楽器ではありました。大学に入って何か楽器を始めたいと思ったのですが、尺八は大学でも初心者が多いので、すでに他の人と差がついてしまっているメジャーな洋楽器よりも良いかな、と思ったのがきっかけです。

―尺八の魅力は何ですか?

 魅力として一般に最も言われるのは音色です。西洋の楽器は主にメロディーとか1曲のつながりの美しさにポイントが置かれがちかと思うのですが、尺八はその「一音」が大事です。1つの音だけで悟りに達することを意味する、「一音成仏」という言葉もよく耳にします。最近知ったのですが、筒にたった1孔しかあいていない尺八すらあるようです。ただひたすら深みある音を出すだけでもう、よし、みたいな尺八らしいです。ミュージックとしての音楽というよりも一音一音のきれいさ。そういうところが尺八の一番の魅力というか、少なくとも個人的には追求していきたいところだと思っております。

―きれいな音色を出すコツは?

 ポイントとして一番大事なのは口周りかと思います。息の出し方と口を当てる角度ですね。最初は音が出ないとよく言われますが、この当てる角度によって出てくる音が違ってくるので、きれいな音を出せるまではここの角度を調整する勘所を押さえていく必要があります。

―尺八をやっていて辛いことや大変なことはありますか?やはり始めのうちが大変なのですか?

尺八部

 始めは音が出なくて、決まった音階が一通り出るようになるまで1ヶ月くらいかかりました。最初は、口の角度が不安定なため呼気がうまく楽器に当たらず、音を出そうと必死になる度に、酸欠でふらふらになっていました。あと、多くの楽器が最初はそうだと思うのですが、尺八もちょっと重いので、当初は肉体的に負担を感じました。合宿などすごくハードにやる時には、手や腕や首が痛くなって、ずっと湿布を貼りながら吹かなければならず、それが辛かったです。今はそのようなことはあまりないですね。

―尺八をやっていて楽しいことは何ですか?

 楽しいことはたくさん、たくさんあるのですが、やはり吹いていてすごく気持ちいいことですね。なかなか思うような音が出ないのですが、それに近い音が出せるようになってくるとすごく心地良いですし、音色がきれいだなと思うようになりました。

 あと、いわゆる虚無僧が吹いていたような古い曲で、長くて繰り返しの多いものを吹いていると、だんだんと朦朧としてくるというか、吹いていてちょっと訳が分からなくなってくるところがすごく良いです。

―これから尺八を始めようと思っている人にメッセージをお願いします。

 ここ大事ですね。まずは本当に一度お稽古を見にきていただければと思います。尺八はどちらかというととっつきにくいイメージがあるかもしれませんが、やり始めれば生涯の趣味になると思います。合奏も楽しいですよ。お筝と三味線と合奏するのが定番で、たまに雅楽器や琵琶などと合わせることもあります。お筝と合奏するときには、お筝を演奏してくださる女子大の方々のきれいな着物姿が見られますし、そういったところで交流も広がるのではないかと思います。他にも、邦楽に限らず、ジャズを初めとして世界の色々なジャンルの音楽と合わせることが可能なので、洋楽器とバンドを組んで、好きな楽器編成で好きな音楽を楽しむことも出来ますね。

尺八部

 部の活動としては、基本的に個人プレーの楽器ですので、自分で練習時間をちゃんと確保すれば自由に活動できますし、ほかのサークルと掛け持ちしている人も少なくありません。

 尺八は趣味として一生付き合っていける奥の深い楽器です。ぜひ尺八部にいらしてください。

あとがき

 師範の先生によるマンツーマン指導が行われる一方、隣の部屋はアットホームな雰囲気。プロを目指す人も、ちょっと吹いてみようかなという人も温かく迎えてくれます。取材後、尺八部の1年生に入部理由を尋ねたところ「音がいい」とか「一生続けられるから」とか口々に答えてくれましたが、中には「何回か来ているうちに張り付いた」と答えてくれた人もいました。そんな雰囲気こそ尺八部の隠れた魅力なのでしょう。

リンク

東京大学尺八部ホームページ:http://toshaku.jp.land.to/

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掲載日:09-02-17
担当:富川恵美
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