世界の知の頂点を目指して
1.学生時代 | 2.東大の総長として
東大のことを一番考えることができるのは、東大の人
総長になることを意識し始めたのは、副学長就任以降だね。昔から斜に構えるのは好きじゃないというか、性に合っていない。でも、愛校心とか、古い言葉なのかもしれないけど、祖国を愛するとかいう思いは強いんだ。もちろん、学生の頃は全然そんなことを思っていなかったけど、だんだんそういう思いが強くなっていったんだ。
なぜかというと、地球全体で東大のことを一番考えることができるのは、やっぱり東大の人だと思う。例えば日本のことを考えてくれる外国人は少なからずいるけれど、それだって基本的には日本人が日本のことを考えることから始まると思うんだ。
総長としての仕事はというと、物理的には人と会って話をしている時間がほとんどだよ。副学長とか、教授とか、有識者などに会って話をするんだ。あとは、講演と挨拶。講演と挨拶を合わせると、一日に3回ぐらいというのが平均だと思う。年間250日仕事をしたとすると、700回ぐらい人と会ってるんじゃないかな。
世界の知の頂点を目指して
これからの大学をどうしていきたいかというとね、時代の先頭に立つ大学を目指したいんだ。時代の核心的な問題、本質的な問題ってものがあって、そのような問題に正面から取り組む場所が大学だと思うんだ。だから、東大のアクション・プラン「時代の先頭に立つ大学―世界の知の頂点を目指して―」を作った。
日本人はまだ途上国意識から解放されていないんだ。これは、明治維新のときに黒船が来て、日本は国の存亡の危機だったわけ。当時、日本が負けていたのは生産力だけなんだ。別に文化で負けていたわけじゃない。お茶だの、ワビサビだの、もののあはれだの、それこそ寿司、天ぷらだの、そういったような日本の文化というのは、おそらく21世紀の世界基調の一つになっていくんじゃないかな。
だから、失われた15年とか10年というのはうそで、失われた37年って言ったほうが正しい。そういうことの中核になる大学を目指したいんだ。困難を意識しつつも対処できていない原因というのは、知識の爆発だと思うんだ。あまりにも知識が増えすぎて、全体が見えなくなってきているんだ。それはみんなの問題で、僕も見えてないし、誰一人として見えていないんだよ。それなのに、誰か偉い人は見えているんじゃないかと思っているところが間違いなんだ。今はお互いが見えないから、自律分散系になっちゃっているんだ。そこを意識した上で、知識の構造化こそが自律分散協調系の大学を作っていくことができると思うよ。
それで、協調の仕組みをどうするかというと、例えば教育だったら学術俯瞰講義。要するに、一つ一つの細かい科目もさることながら、その全体をつなぐ講義を作るんだ。研究のほうだと、学術統合化プロジェクト。サイエンスというのは、細分化する必然性があるわけ。それを統合化していく新しい流れを作る。それから、組織運営。これは、例えば職員の組織だったらば、飛車角方式という大きなフレーム枠の元に、大改革をしますよ。
友人と大事な話をすること
若い人というのは、僕の学生時代とくらべても、やっていること、考えていることはそんなに変わっていないと思う。でもやっぱり、大人が少しだらしがなくなってきていると思うんだ。テレビで大人を見ていると、ほとんどが頭を下げている人ばかりなんだ。だから、若者には一つのことでもいいから、一生懸命に勉強してほしい。勉強以外のことでも、何でも一生懸命やればいいんだ。それから、友人と大事な話をしろと。歳を取ったからかもしれないけど、テレビの夜の番組は軽すぎて好きじゃない。あれでは、人と人との心は通わないと思う。やっぱり大事なことを、本当に興味があることを友人と話すということが、東大で本当に優秀な若者が集まっていることの価値だと思うんだ。奇抜なことなんか、何もないよ。
細々としたことについて言いたいことはたくさんあるけれども、何とか社会をよくしていこうという、心ある大人はいるんだ。我々も頑張るから、大人に絶望するなってことだ。そして希望を持って、若者らしく元気を出せと。それだけだね。
小宮山宏:
1944年、栃木県生まれ。1967年、東京大学工学部化学工学科卒業後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専門課程修士課程・博士課程修了。1988年、東京大学工学部化学工学科教授となり、東京大学大学院工学系研究科長・工学部長、東京大学副学長を歴任。2005年4月、東京大学総長に就任し、現在に至る。
専門は、化学システム工学、機能性材料工学、地球環境工学、CVD反応工学。主な著書は、『知識の構造化』、『地球持続の技術』など。
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