『…迷ったら、犯罪以外やれ。』
筆者が農学部の生命化学・工学専修に進学すると、一際目立った奴がいた。
常にスーツを着用し、教室の端でノートパソコンをいじっているという印象。自分と同学年なのに、学生というよりもできるビジネスマンに見える。飲みの席では自分の夢も社会をどうしたいかも饒舌に語れるかっこいい奴。彼は学生団体の活動に精力的に取り組んでいる。
周りの人間に「こいつは将来何かをしでかす」と思われている男のお話。
今の進路に決めた理由
今は東大農学部の生命化学・工学専修にいるけれど、初めはそんなつもりは全くなかった。そもそも東大に入った理由もこれと言ったものはないんです。実家が東京と京都にあって、私大だとお金がかかるからと親には大学に行くなら東大か京大と言われていました。最終的に東大に決めたのは1つには爺ちゃん、親父と東大生だったので自然かなと思ったことがあります。それと高校2年生の夏に東大志望の友達についていってオープンキャンパスに行き、先端研究センターを見て感動して「東大面白いな、かっこいいな」と意識しだしました。最後にもう1つ、意外と大きかったのが兄貴への対抗心で、兄貴は京大に行っていたので自分は日本で一番の東大にと決めました。
自分は調合をしていって新しい物質を作るみたいなことがやりたかったので理科一類に入りました。進振り先も工学部マテリアル工学科にするつもりでした。でも、実際に入学して化学を学んでみると単位が取れなくて(笑)。化学の研究内容も調べてみると自分が思っていたものと全然違っていた。化学は理論や計算が意味わからんとなって、むしろ調合で物質作るみたいなのは生物、農学部の範囲なんじゃないかと気づいたんです。理一からだと進振りも楽だったので(笑)生命化学・工学に決めました。これは後から知ったことやけど、進振り先を決める時に10個ぐらい研究室を見学しに行ったん、そしたら親父が農二(編注:農学部二類。今の生命化学・工学専修に当たる。今でも割と使われる呼称。)に通ってた頃に係わっていた先生が2人もいた。彼らと親父はいまだに年賀状を交換している仲で、どこか避けがたい縁を感じました。高校の頃は生物は選択してなくてむしろ興味無い方だと思っていたけれど、改めてやってみると実は好きだなって最近は思います。
現在している活動について
今は主に3つの学生団体で活動しています。学生組織OutPutと模擬店サークルK-project、それにUnitedFlowersです。
OutPutでは代表をやっています。学生ビジネスサークル的な団体で、インカレで15人程度で活動しています。具体的には企業からプロジェクトをもらって学生で運営し、収益を出すって感じです。創立は2007年10月ですが、前身となる団体「KFC」は6月に作られました。メンバーは当時インターンシップを仲介している会社にお世話になっていた学生たちです。自分からインターンシップをやるようなやる気のある学生ばかりで、しかもベンチャー系のインターンシップなので就職活動目的というよりも自分磨きのためにやってる人が多かった。けれど、みんな全然違う会社に行っているわけで交流がない。面白い人たちが集まっているのにもったいないということでKFCは出来たんです。名前の由来はいつもミーティングをケンタッ○ーでやっていたから(笑)。ただ、KFCは完全にその会社の直属組織で、そのままだと他の企業と絡むのが面倒になってしまうので、じゃあ名前を変えちゃって枠取り払っちゃえよ、とメンバーなど中身はそのままで名前だけOutPutに変えたんです。
OutPutの合言葉に「…迷ったら、犯罪以外やれ。」というのがあります。OutPutの理念は「理念を持たない」ということ。学生団体ってどうしても「日本を元気にしよう」だとか「就職活動をもっとまじめに考える」だとかいろいろな理念を建ててるところが多いけれど、めんどくさい。僕たちは別に他の学生を元気にしたいだとかではなくて、あくまで自分たちが充実した活動をしたい。目的はないけれど、一緒にやる仲間が欲しい。じゃあもうがつがつ動く、他と比べならないほどに動く。理念はなしでなんでもやろうって決めたんです。
具体的には色々なビジネスをやっています。営業代行・イベントの企画・学生集客・学生向けプロモーション・WEBやSNSの管理などです。ここの会議室(編注:この取材は前述の会社が学生に貸し出している会議室で行われた)のマネージメントもやっています。毎日、各々のメンバーが担当の仕事をしていて、あと週に1度のペースで全体ミーティングを行っています。ミーティングでは各自のタスクの進捗状況の確認だとか、新しく入ってきた仕事の話をどう対処するかなどを話し合います。仕事はイベントで会った企業や名刺を交換して仲良くなった人などから話をもらっています。OutPutはコネはありますね。
K-projectは2007年の6月ぐらいに発足した団体です。僕が初代ゼミ長をやっていた菅原ゼミのメンバーたちが集まってできました。先端研究所でやっているゼミで、選挙を科学するというのがコンセプト。自分たちで分析し、最後には論文を書くというかなりきついゼミで、夏学期なのに終わったのは9月。夏休みもみんなで泊まり込みをしました。大変な分本当に面白くて、自分がゼミ長だったこともあってよく飲み会をしました。集まった奴も面白い奴が多くて、NPO法人やっている人、起業した人、インターンシップをやっている人、東大トップ合格の人もいるし1年生でも本気で政治家目指してる人、「僕は地元の市長になるんですよ」って人もいた。そういう奴らの集まる飲み会で、どうしてそういう流れになったかわからないんだけれど、模擬店の話になった。自分自身、クラスの模擬店(編注:東大の1年生は大抵五月祭でクラス単位で模擬店を出店する)の代表で頑張っていて、他のメンバーにも2,3人店長をやっていた人がいた。それで「クラスの模擬店はみんながみんなやる気あるわけじゃないから店を回すの大変だよね、やる気あるやつだけでやったら絶対面白いのにね」って話になって、そのままノリで「じゃあ俺らでやればいいじゃん」となった。ガチの、最強の模擬店を作ろう、と。ちょうどそのころ僕が食品会社のインターンをしていて、カニなどをほぼ原価で仕入れることができたこともあって、カニのKをとってK-project(笑)。他にも駒場祭のKとかや革命のK とかいう意味もあったけど、今から考えたら革命は普通R(Revolution)やろっていうね(笑)。
そのあと他の大学からも友達を誘ってインカレになりました。前回の駒場祭では5店舗展開しましたが、死ぬほど大変だったのでもうやりません。テントを5つ運ぶのがどんなに大変なのかがよくわかりました。今度の五月祭では2店舗か3店舗を1か所にまとめてやります。もう申請済みなのでぜひ来てください。
UnitedFlowersは前述の2つとはかなり違う団体です。東大ドリームネットの交流会に僕が参加した時にたまたま知り合ったOBさんに山口幹生さんっていう初代ミスター東大の人がいたんです。彼は元ラクロス部で、ラクロス部OB4人で下北沢でホームシェアをしている。さらにラクロス部のメンバーや仲の良かったメンバーが月1ぐらいでパーティをしている。メーリングリストも作ってあって、特に団体として活動するわけではないんだけれど、思いついたことなどを共有する。こういうことやってみたいだとか、こういう人を見つけただとか、この話に感動しましただとか、そういうことをシェアする。それで動こうかという話になったら有志で実際にプロジェクトを作る。例えばホームシェアはすごい素敵だからもっと広めようという話になって、ホームシェアのサイト、不動産仲介なども始めた。山口さん自身も今度NPOを立ち上げようって話がある。今はまだ内緒ですが、僕も今みんなをあっと驚かせるような企画を進めています。
やっぱり東大のOBたちだから、結構すごいメンツが集まっていて、きちんとした団体ではなくて、完全にゆるーいつながりでなにかあった時はみんなでシェアしようって感じなんです。最近のコミュニティって固める方針にあるというか、名前の載っている人に強い束縛を要求する傾向にあると思うんです。 SNSもしかり。僕は正直そういうのがめんどくさい。よくネットワークがうんぬんコミュニティづくりがうんぬんと主張する人がいますけど、実際に本物を作るのは結構難しくて、例えば単純にメールをすればいいというわけではない。それだけだとうざくなってしまうコミュニティもある。逆に特に意識していなくてもふと作ったメーリスが週に200を超えてしまったりするコミュニティもある。だからコミュニティづくりは難しいと最近本当に思います。そんな中で、 UnitedFlowersは僕が今まで見てきた中で最も完成されたコミュニティなんです。お互いが団体と意識するんではなくて、絆そのものに UnitedFlowersと名前をつけたような感じ。そこをある意味尊敬に近い興味をもっていて、OutPutのほうでもUnitedFlowersのマネをして、OutPut会っていうパーティを開いたりだとかいろいろやっています。
自分の中で、団体っていうのは個人が個人の最高のパフォーマンスをして、それが結局絆となって一つの形になるというのが理想ですね。もっとも一人一人がピンで動いたら絶対組織にはならないので難しいですが。
活動を始めた理由・これからの展望
今は3つの団体を中心に様々な活動をしていますが、1年生の時は全くしていなかったんです。はじめ入っていたサークルで飲んだくれの生活をしていたけれど、面白くねぇと思っていて、1・2月には試験も重なってすごい鬱になった。このままじゃだめだって一度断ち切って、自分一人で飛び込もうと思いインターンを始めたんです。するとビジネス系・社会系の活動が自分の性にあっていたというのと、そこにいたメンバーが面白い奴が多くて感化されて動いていたらこうなりました。本当にこの1年間は誘われたらやるというスタンスでやっていたのですごいアクティブでした。
活動を始めて自分で一番うれしく思うのは、自分がより活動的に動けるようになったことです。よく勘違いされるんですが、OutPutは就職活動のためにしているのではありません。学生団体やっている人っていまから将来のことを考えて動いててすごいねーなどと言われることが多々ありますが、あくまで面白くて、自分を磨くことができるからなんです。もちろん、活動を通じて社会のシステムがどうなっているかわかったり、営業のテクニックやプレゼン能力などもついたりしましたけどね。
正直、活動と勉強を両立できていないところがあるので3・4年生ではちゃんと勉強もしようと思っています。ただ、今の活動もあるし、のちに起業する可能性もあるので、学生の間に付けられる経験値は付けておきたいので休学を絡めようと思っています。休学は2年間までできて、しかもその間はお金がかからない。これは利用しない手はないと。2年間はきちんと勉強して2年間はがっつり活動をしたいなという希望的観測を持っています。
大学院に行くつもりは今のところなくて、すごくあやふやだけれど、就職は1度はするつもりです。とても長いスパンで見て、多分最終的には起業すると思います。今のキャラ的にしなきゃいけない気がする(笑)。でも、それまでに一度きちんと他の現場を見ておかないとという気持ちもあります。
起業したらバイオの研究成果がきちんと社会に還元されるような社会づくりをやっていきたいことをやりたいです。バイオ技術はどこまで行っても生命倫理が絡んでくるから、社会に実際活用しようとしてもできないところがどうしてもある。そこをうまく回すことのできる、研究成果がきちんと社会の発展に寄与できるような構造を作る。そんなポジションの人間になりたいと思います。最近一番関心があるのは遺伝子組み換え食品で、これが結構象徴だと思っている。講義でも安心と安全が一致していないという話があったけれど、客観的な危険性と、一般人が考える危険性が一致していない。日本人の象徴的な所だなとすごく思います。そういうところを民の立場から変えていきたい。自分は絶対官には入れないタイプだと思っているので(笑)。ただ東大には官に行く人も多いと思うのでコネは作っておきたいですね。
就職は一番行きたいのはアメリカです。遺伝子組み換えの特許を持ってそれを実際に販売している会社に入って、ライセンスのことなどを学びつつ自分が独立する時に役立てたい。それともし自分が社長になったら英語が喋れない社長はカッコ悪いので英語も学びたい。自分は英語が本当にダメなので、4月に卒業してそのままアメリカにホームステイして、ある程度英語が喋れるようになったら向こうの新卒と同じタイミングで入るのがいいかもしれないです。いま思いついたレベルの話ですけれど。
メッセージ
すでにアクティブに活動している東大生は、向上心をずっと持ち続けてほしい。それと、自分は自分に自信を持っているけれど、それが決して自慢にならないようにいつも気を付けています。他の人に対して俺はすごいからみんなもすごくなった方がいいよっていうアプローチをするのはすごく嫌い。学生団体をやっている人ってどうしてもそういう傾向が強い。学生団体をやっている人は逆にバドミントンとかはうまくないわけで、選んだ「趣味」が違うだけで所詮学生は学生なんだって意識は持っていた方がいいと思います。一方これは強く主張しておきたいのですが、学内の団体で活動している人は学外も視野に入れるべきです。一概には言えませんが、OBさんも含めて東大生はコミュニティが狭い。東大の中で固まってしまう傾向の人が多いので、少なくとも学外に自分の知らない世界があるということはある程度自分の中に意識を持った方がいいと思います。
何かやりたくてやれていない人は、とりあえず何かやってみる。色々やりたいけれど何から手をつければわからないとか、本当に自分のやりたいことがわからないって人は、まず目についたちょっとやりたいかなってことに手を付ければいいと思う。頭でいくら考えても、本当に自分のやりたい事柄ってみつからない。見つかるわけがない。そういうのは後付けで見えてくるもの。やってみて楽しかったから、これが自分の好きなことだ。趣味ってそういうものだと思います。自分にとって活動の意義はあくまで自己満足と充実感。まず目標があってそれに向けて学生の間から一歩一歩前進するのはもちろん意義があるけれど、自分でやっていて楽しい、やっていて自分に自信がつく、それだけでも十分だと思います。
プロフィール
石崎優 -いしざき・まさる-
農学部 応用生命科学科 生命化学・工学専修 3年(現在休学中)
出身地:京都府
出身高校:私立高槻高校
好きな言葉:やらない善より、やる偽善
学生組織OutPut代表、模擬店サークルK-projectをはじめとして様々な学生活動を行う。

