『たくましさ』を育てるために
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附属機関としての「東大附属」
もともと東大附属は実験学校として設立されていますので、常に教育研究において東大との連携が模索されて実践されてきています。その中でいろんな連携の仕方がありますが、ここ数年は学校全体として、教育学部の佐藤学教授が推奨している「学びの共同体」という学びのスタイルを実践し、更にそれを深める研究をしているというのが一つあります。
その「学びの共同体」というのがどういうものかというと、従来の授業というのは教師がいて黒板があって、生徒全員が教師の方を向いている、という「1対多」の形式ですよね。これは生徒たちからすれば非常に活動性が低い。なので、まずそれを廃止して基本は生徒同士が学びあう形にするんです。例えば、男女2人ずつの4人が向き合って課題に取り組むんですね。そして、その中で出てきた成果や疑問を持ち寄って、全体でそれを共有して学びを深めます。その時も「1対多」ではなくって机がコの字型に並んでいて、先生はその中をウロウロしているんですね。つまり「小集団での学びあい」そして「全体での向き合っての学びあい」という2つを中心にしていて、先生は側面からサポートするだけであまり喋らないし、主導もしないんです。これが「学びの共同体」というモデルで、海外の学校にも広がってきています。
東大附属ではこの「学びの共同体」を重点的に実践していて、特に後期課程(編注:中等教育学校4年〜6年。いわゆる「高校」にあたる。)では高校レベルとしては全国に先駆けてモデル校になってやっているんですね。ですから連携の一つのあり方として、「学校全体に関わる学びのスタイルというものを、教育学部の教員と協力しながら作り上げている」というのが一つあります。
それから、先ほどお話しした総合学習の中に東大が組み込まれている、という例があります。例えば、1年生でやる「国際理解」は留学生センターの協力を得て実施していますし、「農業に学ぶ」の実習では田無の東大農場を利用しています。また、総合学習以外でも部活動で乗鞍寮や、検見川運動場、千葉の演習林なども使っています。とにかく、全国にある東大の様々な施設、それを東大附属は非常に有効に活用しています。恐らく東大生よりも東大を幅広く活用しているんじゃないかと思いますね。
さらに、東大の総長や学部の教授が授業に来られたり、東大附属の隣にある海洋研究所の先生方が授業を担当してくれたりもします。逆に、附属の教員は東大の教育学部で「数学教育法」や「理科教育法」といった、学校の先生になるための「教科教育」を担当しています。つまり、附属の教員であり、同時に大学の非常勤講師でもあるということです。実は、大学にいる教員だけで「教科教育」を行うことは、現場をあまり知らないということもあってまず不可能なんですね。そういった意味では、質の高い附属の教員が教科教育を担当してくれるということで、大学にとっても非常に有り難いことなんです。
東大附属と教育実習
東大附属はこれまで東大の学生の教育実習を受け入れてきましたが、2007年度から若干の変化がありました。というのも、大学院教育学研究科に教育実践について学び研究する「学校教育高度化専攻」が設置され、既に教師である人も大学院生として附属をフィールドとして実践的に研究するということになりました。そのため、附属の先生も大学院生に指導をしたり、共同研究をしたりする訳なんです。その分、いわゆる教育実習っていうのは、自分たちの出身校でもできるので、募集人数を30人程度だったものを10人程度に一時的に減らしています。だけど学校教育高度化専攻の方も徐々に軌道に乗ってきましたので、また従来の水準に戻して、教育実習も充実させていきたいと考えています。
さらに、既に教員になっている人を対象にした教員免許の更新制っていうのが始まるんですね。ですから、そのための研修が新たに必要になってきます。その内容は大学が中心に考えるんだけども、東大では附属の教員も協力して考えています。そういう意味で、教育実習と教師教育というものが附属学校の一つの任務であるということは、変わらないということですね。
東大附属の双生児研究
東大附属の第1回、すなわち1948年度の募集要項を見ると、その時は男子だけを募集したんだけれど、募集定員が「男子80名(普通学級40名、特別学級40名)」となっています。東大附属の前身の「旧制東京高等学校」はすごいエリート校だったんですが、そこから一転して、普通教育、さらには遅れを持った子供たちの教育を行うようになったんです。国立大学の附属っていうのは大学の教育学部が背後にあって、専門家がいる訳ですから、エリート教育ではなくむしろそういった教育をすべきなんじゃないかっていう、方針の転換があったんですね。さらに、「普通学級は抽選で40名を合格させることにする、一卵性双生児は抽選によらずして特に選考する」とあります。だからこの時から一卵性双生児は優先的に入れているんです。つまり、双生児研究は創立からの歴史があるんです。
で、現在の募集要項はどうなっているかというと、双生児の枠、というものを今も作っていて、男女それぞれ10組ずつ合計40人を募集しています。全体の募集枠は120人なので、最大だと3分の1が双生児になるということもあり得るんですね。実際には、そんなに双生児が集まることは無く、多くても半分くらいで、男女あわせて10組ぐらいが入学しますね。それでも全体の6分の1が双生児、ということになる訳ですから、40人のクラスに7人くらいはいます。
これが双生児の入学に関する歴史と現状ですが、その研究成果には様々なものがあります。まず、双生児研究は大きく2つに分かれるんですね。つまり、一つは「双生児に関する研究」、もう一つは「双生児を用いた研究」で、その両者について成果が発表されてきています。「双生児に関する研究」というのは、双生児にはそうでない子供に比べて心身両面でどんな特徴があるのか、発達の仕方にどういう特徴があるのか、双生児の間ではどのような人間関係が作られていくのか、あるいは双生児の親の意識はどうか、などどいったいわば「双生児って何?」という研究です。「双生児を用いた研究」では、例えば、性格や学習能力などがどれくらい遺伝で決まるのか、どれくらい環境で決まるのか、ということを調べる時に、一卵性双生児は、遺伝子が同じですので、そういう研究に非常に適しているんですよね。さらに、2つの指導方法のどちらがより有効かを比べる時に、2つの群に分けて実験するんだけれども、通常は被験者の元々の能力差が結果に反映されてしまう可能性が常に残ってしまうんですね。しかし、双生児のペアを使って比べれば、それは遺伝的に同じで、環境的にも類似した人たちですから、それで差が出てきたっていうことはより強くこの指導方法が有効だって言えるんです。そういった研究方法を「双生児法」と呼んでいます。
これらの研究は、附属の教員の他に、教育学部やそれ以外の学部、あるいは東大以外の大学との共同研究で行われています。さっきも「実験校」って言ったけど、先生方がこのような実験を支えて、毎年附属の論集に研究論文を書いておられるんですね。例えば今年度の論集では副校長の三橋先生が「双生児の親の会会員アンケート」ということで、双生児を持った親たちの意識についてのアンケート調査をしています。これはさっきの分類で言えば「双生児に関する研究」ですよね。それから、「思春期における心身の発育・発達について〜双生児からの一考察〜」、これは双生児法を使って、遺伝的に同じ者がどういうふうな違いを見せるか、ということを調べて、心身の発達っていうのはどれくらい後天的に決まるのだろうということを研究したもので、これは体育の先生が書かれました。それから附属内部に「双生児研究委員会」というのがあって、そこからも成果が発表されています。研究論文集を毎年出している学校はそうそうないと思いますよ。
双生児については、教育学部とか東大附属とかで一つのテーマがあって、それをずっとやってきたというよりは、ともかく双子をこれだけ継続して入学させているので、それによって蓄積された膨大なデータがあるんですね。なので、さらにそれを毎年蓄積していく、さらには新しい研究テーマが出てきたときにはこれまでに無かったデータを得ることができる、ということで、一つ固定した形で何かなされるというよりは、様々なプロジェクトに双生児がデータを提供しているということですね。世界でもこういった学校は無いと思いますよ。
校長就任に当たって
私はまだ就任して2ヶ月(編注:2008年6月現在)なんですね。もちろんこれまでも東大附属のことは知っていた訳だけども、実際に来てみてやはり良い学校だなと思いました。そして、「本物の知性とたくましさを育てる」というこの学校のやり方が非常に好きなので、「こういうふうにしていこう」「こういうふうに変えていこう」ということではなくてそれをそのまま伸ばしていけるように、校長として協力できることがあればと思っています。
その中でも、「連携」ということはすごく大事だと思うので、これまでも東大の持っている様々な資源を利用してきましたが、なおいっそう有効利用するということ、それから逆に大学の教員が双生児も含めた「東大附属」という資源を有効に活用できるように連携を強めていきたい、というふうに思いますね。例えば学習指導法の開発研究や、それから6年間の思春期の子供たちがいる訳ですから、生徒を対象とした縦断的な発達研究、あと学校運営についても、生徒と保護者と教師の三者が一堂に会して協議をする三者協議会というものをやっていて、そういった学校運営に関する研究というところでも連携できるかもしれないですよね。このように、東大附属はまだまだ様々な「連携」の可能性を持っていると思っています。
あとは私の専門が心理統計、教育評価なので、附属の入学試験がどういうふうに機能しているかという入学試験の妥当性の検証であるとか、あとは本校のカリキュラムの評価、教育効果の評価などに、私の専門性を生かして参加していきたいと思っています。
東大生に一言
これについては総じてどう、という議論はしにくいですね。やはりいろんな人、いろんな学生を見てきて、「4年間休憩時間」みたいな人もいたけど、それが卒業後には、休んで蓄えていた力を使ってドンと伸びる人もいます。だから「こうあってほしい」っていうのは、一人一人については感じることがあるんだけれども、総じて東大生に、っていうくくりではあまり考えていないですね。
敢えていえば、さっきから東大の資源を附属が有効利用する、逆に附属の資源を東大が有効利用するって言ってきましたけど、やっぱり東大っていうのはすごい物的な、それから人的な資源を持っているんですね。しかし学生はそういうことに気づかずに4年間を過ごしてしまうことが多くて、卒業した後に、「あぁ、あんな先生が近くにいたんだ」「こんな設備があるのに使っていなかった」って悔やむケースが非常に多いんですね。なので4年間っていうものを、本当は一人一人の生き方で良いと思うんだけど、できるだけどん欲に東大の持っている物的人的資源を活用してほしいと思いますね。そういう意味では東大附属っていうのも資源の一つなんです。いわゆる中学生高校生が「東大」という組織の中にいるんです。だから、そういう中高生を対象とした研究や実践をしてみたり、あるいは学校の現場について知りたいというのがあれば東大附属を資源として利用できるということは付け足しておきたいと思います。
プロフィール
1953年、沖縄県生まれ。1977年、東京大学教育学部教育心理学科卒業後、同大学院からアイオワ大学大学院に留学し、1981年、Ph.D.を取得。その後、アイオワ大学、新潟大学に勤め、1993年に東大へ。2002年、大学院教育学研究科教授、2008年から教育学部附属中等教育学校長を兼任。 専門は、心理統計学、心理測定学、心理学研究法。主な著書は『心理統計学の基礎』(有斐閣)、『心理学研究法入門』(東大出版会)など。
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