医学部長インタビュー

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1. 廣川先生の研究について | 2. 医学部全体について


−学部全体として何を目指しているのでしょうか?

東大の医学部は、未来の医学医療を切り開く医学研究者を養成するということを、国際社会の中で果たすべき非常に大きなミッションとして捉えています。これは今までもそうでしたし、これからもそうです。もちろん、現在の医療を担う臨床医を養成するというのも大きなミッションであるのですが、やはりその中で、まだ分からない事柄を研究し解明する、広い意味での研究者の養成を重視しています。

廣川先生

日本に90以上ある医学部や医科大学には様々なタイプがあります。その中には、現在の医療現場を担うお医者さんの育成に主眼を置き、またそれに適した学生さんが集まる大学ももちろんあります。これは多様性の問題であって、どっちが偉いとかの価値の違いではありません。歴史的に、東大には、未来の医学医療を切り開くクリエイティブな研究に携わるポテンシャルを持った学生が多いので、医学研究者の養成ということに重みを置いているということなのです。

−医学部の教育にはどのような特徴がありますか?

まず、基礎医学の教育があります。これは我々の体の基本的な仕組み・機能を学ぶもので、細胞生物学、解剖学、生理学、生化学、分子生物学、免疫学、薬理学、病理学、ウィルス学、細菌学といったような分野の講義・実習があります。また、公衆衛生学や法医学といった、社会学的な側面を持つものもあります。それらを受けた後に、臨床医学の講義・実習があります。実際に患者さんに接して、病気を診断し、治療法について学びます。

それらに共通する特徴としては、実習を重視するということでしょう。例えば、解剖実習で人体の解剖をやってもらう時も、人体は単に神経系があるだけでなく、骨があって筋肉があって、消化器系があって内分泌系があって、あるいは循環器系があって…といったきわめて多様な細胞、組織、器官からなっているがそれが見事に統合されて私達が生きているという、人体の仕組みをトータルに学ぶということをやっています。しかも実習ですから、自分の手でそれを明らかにしていくわけですね。また、研究というのはやはり肉体労働という側面がありますので、実習にはそのためのトレーニングの意味もあります。同時に、職業的な臨床医に求められる基礎素養も実習を通じて体得していきます。

基礎医学を学んだ上で、5年生・6年生では臨床の各科を回ってのベッドサイド・ラーニングがあります。そこでは、実際に患者さんに対応しながら臨床医学を学びます。それに加えて特徴的なものには、フリークォーターというものがあります。これは夏休みを含めた何ヶ月かの間、自分の好きな研究室に行って実際に研究の現場に参加するというものです。そういった活動によって研究の芽を育てているのです。

−産学連携など、社会とのつながりを教えてください。

医学というのは応用科学の側面を強く持っています。特に臨床医学はそうですね。ですから、産学連携は急速に発展してきています。

例えば、外科系の手術のロボットの開発は今急速に進んでいますし、あるいはドラッグデリバリーシステムという体の中に直接薬剤を導入する方法の研究などもあります。このような研究は主に工学系の研究者と共同で行っていますが、産業に応用できることになれば実際に産業界と連携することもあります。もしくは、病気の本態の研究の中でそのメカニズムが分かり、その病気に対応するような化学物質が開発されれば、それを用いた薬のデザインを製薬会社さんとやっていくことだってあります。

そのように、大学の中の他のフィールドの方々と一緒にやっていくこともありますし、大学の外の産業界とコラボレーションすることもあります。ですから、社会とのつながりはこれからますます大きくなっていくと思いますね。

また、それは基礎医学でも同じなのです。私たちは最先端の研究をしているわけですが、その中で、今あるものよりもさらに高性能な装置が必要になります。例えば、より分解能の高い電子顕微鏡などですね。そのようなニーズを満足させるような機器をメーカーと共同で開発したりといったことも、活発に行われています。

あとは、社会的な要請というものもあります。今までは、健康や医療に関わる職種というものは医師、看護士、薬剤師ぐらいでした。ところが最近は、医療経済の問題や病院の運営の問題、あるいは生命倫理の問題といったことで、医療や健康科学に関わるトピックが非常に大きな広がりを見せています。そういったことを受けて、製薬会社や政府の機関などで健康科学についての教育を受けた人材が求められているのです。

−今、学生に求めることはなんでしょうか?

私が研究を始めたころと比べて、今の日本の研究環境は格段に良くなっています。昔は欧米との格差が大変大きかったのですが、今は決してそんなことはありません。そしてまた、研究というものは激しい国際競争の場でもあります。

そのような状況にあって、やはり学生の皆さんには大きな目標を持ってもらいたいと思います。しかしそれはすぐにできることではないので、まずは自分の研究の武器となるものを身に付け、研究に対するクオリティの高い目を養うということが大切です。そのためにはやはり、高いレベルを持った研究室に入り、自分のスキルを磨くということになります。

その上で、いよいよ独立していくような段階になったら、自分でアタックする価値のある大きな目標を探すということをやってもらいたいですね。もちろん、それにはリスクを覚悟しなければなりません。ですが、すぐ答えが出るような研究を多くこなしていてもどうしようもないのです。そんなものよりも、ホームランをカッとばすような大きなことを今の学生にはやってほしいと思いますし、また研究環境から言っても、学生のポテンシャルから言ってもそれは可能だと思います。しかし、そのためには当然、努力しなければいけません。ハングリー精神が必要なのです。これについては、むしろ今は昔に比べてソフトになった気がするので、若い人たちには考えて欲しいところですね。

それと、やはり研究を楽しんでもらいたいですね。好奇心を持って楽しみながら研究をしてもらいたいと思います。もちろん、苦しいことも沢山あります。実験なんて、100回やって1回成功すればよい方かもしれません。でもその1回の成功が、例えば、今まで人類が誰も知らなかったようなことを自分が発見したということだったら、その喜びと興奮は到底お金では買うことのできないものです。それを是非、味わって欲しいと思います。

また、日本人としての、いい意味でのアイデンティティを大切にして欲しいと思います。日本で、日本人として研究している以上、例えば米国ではできないようなオリジナリティあふれるような研究をしてほしいですね。

廣川先生

研究というのは、やはり時間がかかります。リスクの大きなプロジェクトを選べば、結論が出るまで非常に長い時間がかかるということを覚悟しなければいけません。また逆に、そのような覚悟が無ければ大きな発展は望めないのです。そこそこの研究をそこそこにやっていくというのも、本人がどう思うかの問題ではあるのですが、私としてはやはり、東大の学生は大きな獲物に向かって突き進んでほしいと思います。


取材の際に先生の研究の資料をいただいたのですが、それを見てびっくりしました。話してくださった内容と全く同じなのです。当たり前といえば当たり前ですが、話の展開や細かい言い回しまでほとんど全く同じでした。いろいろな学会などで何度も話されていることなのでしょうが、長期間におよぶ研究が全て理路整然とした形で頭の中に入っているというのはやはりすごいと思いました。

 医学部ホームページ: http://www.m.u-tokyo.ac.jp/


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記事掲載日:06-07-13
担当:伊藤俊夫
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