教官の視点
※2006年度入学者より、英語教育のカリキュラムが大幅に見直され、同時に英語Iテキストが変わりました。この記事には古い情報が含まれますので、ご注意ください。
佐藤良明教授
英語Iの最大の特徴、『The Universe of English』という統一の教材についてのお話を中心に、英語Iの改革を中心的に行ってきた佐藤良明教授にうかがいました。
1.英語Iとは? | 2.教官の視点 | 3.学生の視点 | 4.2つの立場を俯瞰して
統一教材の使用によるメリット及びデメリット
『The Universe of English』作成以前の英語Iは、教員のやる気や質に大きな差があり、率直に言ってひどい状態でした。それに比べれば、良い教材の作成によって状況が少しは改善されたといえます。
しかし、同時にデメリットも大きく、良い教材があるために、教官が大した力を注がなくとも授業ができるようになってしまいました。授業は、教師が自分の人格で学生と接しなくてはなりません。もし授業の質が悪ければ学生から厳しい判断をされ、そうならないように自分を丸ごとぶつけていく、それが大学で英語の授業を行う意味なのです。現在の英語Iでは、そうした人と人との関係ではなく、教材と学生の間でのやりとりになってしまっており、それが統一教材の使用による最大の欠点だと考えます。
Reading主体の英語教育について
一般に外国語教育というと会話能力が重視される傾向がありますが、それは中学・高校と英語を学んでもなかなか話せるようにならないことへの、当然ともいえる反応です。しかしListeningやSpeakingは、中高の英語の復習やインターネット等を使って、自分ひとりでもできることだと考えます。
そこで英語Iでは、時間的・人数的な制約に加えて、学生に内容のあるコミュニケーションを行ってほしいという考えから、Readingを中心に据えているのです。個人的には、日本人は外国語を知的に読む能力がなかなかつかないので、経済的にではなく知的な生活を営む面で損をしている部分が大きく、その意味でも読解能力を養うことは重要であると思います。
ただ、大学でもできるだけReading以外の能力を養っていくことは必要であり、事実、英語I以外の授業では、少人数で作文やListeningをきちんと教えているところもあります。ですが、これも英語Iでしっかりと読解能力を教えているため、他の授業での教員の負担が軽くなっていることが背景にあるのです。
教材の内容について
かつては少数のエリートが主導する社会であり、エリートとして大学生が身につけるべき教養として、古典が重視されていました。しかし、大衆化社会である現在では、大学生はもはやエリートではなく、学生にとっての知の状況が大きく変化しています。このようなポスト・エリートの時代、また情報化の流れのなかで、ひとはたくさんの知識を使いながら生きていかなければならないのです。そのため、フラクタル理論や不確定性理論など、文理の別を問わず知っていると得をするだろうというサービス心から、教材の文章を選びました。
また、この教材をつくった90年代、音楽の分野では、たくさんのソースを集めて変形していくヒップホップというスタイルが一般化しています。これに例えて言うならば、高みにあるものを偉そうに見せるのではなく、自分がDJとなって、集めた色々なものの中からターンテーブルをまわして学生にほいほいとパスを出していく感覚で、教材を作成しました。(編注;佐藤教授の専門はポップカルチャーです)
英語Iを通じて学生に伝えたいこと
実のところ、学生は英語Iのような授業を期待すべきではないと考えます。人数や時間を考えれば、大学の授業の質が悪いことには仕方のない面があります。では、学生に何を学んでほしいかといえば、「教師を学ぶ」ということです。すなわち、教師の生き方や経験、英語の接し方など、教室でしか学べないことを、英語Iの授業で学んでほしいと思います。
また本来、教養とは一人一人異なるものであり、各個人がPleasureを増していくためのツールとして英語は非常に有用です。特に現代の享楽文化のなかで、大学生はそれを最も多く享受する世代であり、英語ができれば、より多くの物事に接することができます。その結果、人生をより楽しめるのです。そのために英語を学ぶ喜びのようなものを、学生は認識してほしいですね。
最後に学生へのメッセージを
大学生というステータスのうちに、様々な人と交わり、クリエイティブな遊びを通して享楽の文化をどんどん味わってください。ただ、現代は一人でいても十分楽しめてしまう時代であり、そこに陥ってしまうと危険です。そのため、「アクチュアルな哺乳動物」として動き回り、人々が交わる社会の中に飛び込んでいくことが必要です。「哺乳動物」という言葉を使ったのは、動物と動物の間には愛や闘争が生まれるからです。大学生には、人と人との間に生まれる、愛と闘争の濃い生き方をしてほしいと思います。
私は、できるだけ社会の枠にとらわれず旧弊を壊そうとしながら生きてきて、それなりに充実感を得ることができました。優秀な人にとってこのような生き方は、きっと楽しいことだと思います。あなた方も、このような方向性を持って生きてみてはどうでしょうか。
1.英語Iとは? | 2.教官の視点 | 3.学生の視点 | 4.2つの立場を俯瞰して

