究極の素粒子理論を求めて

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第64回駒場祭3日目の最初の公開講座は、以前「高校生のための金曜特別講座」の授業で好評を博した加藤光裕先生による講演でした。「究極の素粒子理論を求めてーアインシュタインの夢は叶うかー」というロマンを感じさせるタイトルに惹かれながら会場に行ってみると、そこにはすでに多くの来場者が。講演が始まる頃には立ち見が出るほどの盛況でした。

まず、先日話題になったCERN(欧州原子核研究機構)のヒッグス粒子発見の話から始まりました。ヒッグス粒子を検出するために使われたLHC(大型ハドロン衝突型加速器)という装置は国境をまたぐほど大きいものなのだと、豊富な写真と共に紹介がありました。では、この巨大な装置で発見したヒッグス粒子とは、どれくらいの大きさなのでしょうか。また、何者なのでしょうか。

全ての物質はとても小さな粒である原子からできているということは、広く知られていることでしょう。その原子の小ささというのは、およそ1mの約1010分の1ほどで、これは人間を地球の大きさまで拡大してようやく原子がゴマ粒の大きさになるほどの小ささなのです。しかしその原子でさえ、さらに原子核というものと電子という素粒子に分けられます。そして、その原子核も陽子と中性子からなり、さらにそれらもクォークという素粒子まで分割することができるというのです。

このような想像もできないほど小さな素粒子は全部で18種類あり、それらはスピンと呼ばれる自転の大きさのようなものなどによって大きく5つに分類されます。スピンの大きさで分類すると、スピンが1/2となる素粒子のグループがクォークとレプトンで(それぞれのグループには6種類ずつの素粒子が含まれます)、スピンが1となるのはゲージボソンというグループ(4種類の素粒子が含まれます)、スピンが2となるのは重力子という素粒子のみ、そしてスピン0の素粒子がヒッグス粒子というわけです。例えば、電子はレプトンの一種、光子(光の粒)はゲージボソンに分類されます。重力子を除く素粒子の存在を仮定して物理法則を説明しようとする理論を標準模型(標準理論)と呼びます。

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これらの数ある素粒子の発見には、日本人の科学者も多分に寄与しています。2002年にノーベル物理学賞を受賞した東大の小柴先生は、カミオカンデという観測機を使って、ニュートリノという素粒子を初めて観測しました。また、2008年に同じくノーベル物理学賞を受賞した小林先生、益川先生の小林・益川理論は、1967年のサハロフのCP対称性の破れの証明と合わせて、3種類のクォークの発見に繋がっています。

科学者の長年の努力によって、これまでにヒッグス粒子を除く標準模型の素粒子が発見されてきました。そして、今回のヒッグス粒子の発見で全ての素粒子が確認されたことになります。しかし、これでこの世の物理法則が全て明らかになったわけではありません。例えば現在の理論では、ニュートリノ質量やダークマター、そしてなにより重力を説明することができないのです。

アインシュタインの一般相対性理論によると、重力は時空(=時間+空間)のゆがみによって生じるとされています。それに対して、標準理論では電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用という力で重力を説明しています。これらの考え方を統合することこそが「(現代版)アインシュタインの夢」なのです。

専門的な話になりますが、これらの2つの理論を同時に扱うためには、シュワルツシルド半径とコンプトン波長というものがほとんど等しくなる領域を考える必要があります。これらの長さが等しくなった時の長さをプランク長さというのですが、これは1.6×10-35mと、原子の中で最も小さい水素原子の原子半径の1024分の1という小さな世界なのです。素粒子をこのプランク長さレベルで見てみると、実は開いた弦、もしくは閉じた弦のようになっているように見えるのだそう。弦の振動がエネルギー(=質量)と対応し、回転がスピンと対応づけられます。この弦理論はまだ仮説段階ですが、これが正しいと証明されれば、アインシュタインの夢を叶えることができるのかもしれません。

日本人のノーベル物理学賞の半分以上が素粒子物理学の範囲であるように、素粒子は日本のお家芸とのこと。この分野に限らず、まだまだ未知の部分が多いですよ、と会場の高校生に期待するような言葉で先生は講演を締めくくられました。その後の質疑応答でも老若男女問わず活発に質問があがり、講演後にも高校生が先生に質問しているなど、来場者にとっても刺激的な講演だったことが伝わってきました。