トップアスリートの身体感覚

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駒場祭最終日の25日に行われた公開講座の1つ目は、工藤和俊先生による「トップアスリートの身体感覚」でした。トップアスリートの動きや生体情報を計測し、それがどのように生かされているかを研究なさっている工藤先生。その研究の過程におけるアスリートの内的感覚に迫る試みを紹介してくださいました。

最先端技術をもってしてもなしえないことを人間は行なっており、その中の代表的なものとしては作曲、小説執筆、運動といったものが挙げられます。熟練運動によって、人間のなしうる最高次のパフォーマンスを行なっているのがアスリートです。一流のプレーヤーは立っているだけでも違い、動きがしなやかで、目の付け所が違うといいます。それは各々、姿勢や立ち振る舞い、筋活動、視線から現れるものです。

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ここで、スキージャンプ一流選手を取り上げます。スキージャンプは、風などの環境に左右される競技ですが、彼は安定したパフォーマンスをみせます。通常、スキージャンプにおいては長いスキー板で行うと、それが大きな翼となってよく飛ぶことができます。世界大会の上位陣の多くは身長が高く、高身長であることが有利に働く競技ですが、その選手は172センチとあまり高い方ではありませんでした。それをはねのけて彼が良いパフォーマンスをして上位陣に食い込むことができたのは、安静立位時の足圧中心動揺が小さいところに秘密がありました。これはどういうことかというと、左右の揺れが小さいということであり、その選手は目を閉じてもほとんど左右の揺れはほとんど変わらなかったのです。そのことは踏み切り時に影響してきます。左右の動揺が小さいと、踏み切り後の左右の板が揃い、空気抵抗が小さくなり、より遠くに飛ぶことができます。

さらに、大相撲上位力士を取り上げます。その方は、他の力士に比べて体重、握力、背筋力が群を抜いて優れているというわけではありません。しかし、先ほどのスキージャンプ一流選手と同様に左右の動揺が小さく、姿勢が安定しています。大相撲上位力士本人に協力を仰いでデータの測定を行なった様子や、実際の取り組みの様子を動画で示しながら説明してくださいました。

ドラマーやピアニストの例も取り上げており、ドラムやピアノの演奏時にも、筋活動の様子を見てみるとプロとアマでは、プロの方では無駄のない動きとなっていました。

最初に述べた姿勢や筋活動、視線は鍛錬を重ねることによって体得できる体の制御であり、トップアスリートはそれを実現できているのです。トップアスリートが、我々と同じ人間であるにもかかわらず、あのようなパフォーマンスをすることができるというのは、こういった部分が大きく影響しているのだと改めて実感しました。

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先生のお話が終了した後の質疑応答の時間では、多くの人が熱心に質問をしていました。そのなかで、気になったのは、スポーツ科学というのは筋力から始まることが多く、スキルに関することは遅れを取っているということです。それは、研究者は外から見た感覚しか分からないためで、講義で取り上げたようなデータをトレーニングに生かすためには身体の内部の感覚が分かるトップアスリートとの協力が必要不可欠であるといえるとのことでした。

用意された質疑応答の時間内では満足しきれなかった方が、講義後先生の下に駆け寄って質問をなさっていました。

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