理学部「理学のワンダーランド」

理学部「理学のワンダーランド」

理学部1号館の小柴ホールで開かれた「理学のワンダーランド」には、たくさんの親子連れが集まりました。集まった聴衆の約半分、約80人は小中学生で、普段は物静かな雰囲気を見せる理学部1号館に活気のある声が響きました。理学部の卒業生の方々も訪れ、東京大学を懐かしみながら話を聞いている様子でした。

理学部長・理学系研究科長の五神真先生の挨拶の後、まず物理学科の牧島一夫先生による講演「ロケットとブラックホールの話」がありました。この2つの題材に子供たちは興味津々の様子で、真剣に話を聞いているようでした。

まずは宇宙の基礎的な話から始まりました。最初は宇宙がいかに大きいかという話です。地球がビー玉の大きさだとしたら、太陽系が属する天の川銀河は日本全体くらいの大きさで、よその銀河は外国みたいなものだといいます。それだけ遠いと光が伝わるのにも時間がかかるので、遠くの星は昔の姿が見えています。さらに、見えているものが宇宙の全てではないといいます。たとえば、太陽の周りにある非常に高温の物質であるコロナは、皆既日食のときだけ見ることができます。その姿もコロナ自体が光を発しているわけではなく、コロナによって散乱した太陽の光が見えているのです。他にも、同じく目に見えないものとしてX線が紹介されました。

理学部「理学のワンダーランド」

そして、いよいよメインテーマの1つ、ロケットの話です。まず実際にロケットが発射されるときの映像が流れると、子供たちは食い入る様子で見ていました。ロケットは3段に分かれており、2段目に取り付けられたカメラの映像です。ロケットが発射されて浮上し1段目が切り離され、上昇して姿勢制御、そして2段目も切り離され、3段目の噴射によりカメラが燃えて壊れるところまでを見ることができました。ロケットを打ち上げる目的の1つは人工衛星の打ち上げです。牧島先生もこれまで約9件の人工衛星プロジェクトに関わっており、代表例として衛星「すざく」が紹介されました。先生は他にも国際宇宙ステーションの日本のモジュールにも関わっておられるそうです。

その後は、今度はブラックホールの話です。ブラックホールの内側に入ったものは決して外に出ることができず、そのため中の様子は分かりません。先生はその境界である事象の地平面を「この世とあの世を分ける結界」に例えて説明されました。光を放たないため見ることができないブラックホールですが、ブラックホールに落ち込む物質が事象の地平面に達する直前に放つX線によりその存在を確かめることができます。実際にX線を観測して得た天球図も紹介されました。よく質問される事柄として、ブラックホールに吸い込まれた物質はどうなるか、ブラックホールはいくつあるのかなどの説明もありました。答えは、ブラックホールに吸い込まれた物質がどうなるかは分からないそうです。ブラックホールの内側は観測できないため、どうなるかを証明できないのです。また、ブラックホールの数は、観測されているものは30個程度だそうです。ただ、まだ見つかっていないものを含めると、宇宙の星数千個に対して1つくらいあると推測されています。

約40分の講演が終わり質問の時間になると、多くの小学生が思い思いの質問を先生にぶつけました。ブラックホールは消滅しないのか、1番大きいブラックホールはどれだけ大きいか、ホワイトホールはあるのか……。子供らしくも興味深い質問が飛び交いました。ロケットに関しても、発射されたロケットの1段目や2段目は地上に落下するのではないかなど、鋭い質問が出ていました。休憩時間に入っても、質問を求める子供たちが先生の前に列を成しました。

理学部「理学のワンダーランド」

さて、今度は生物学科の榎本和生先生によるクイズ大会「生命38億年の謎について考えてみよう」です。最初に参加者全員が立ち上がり、3択のクイズに答えて間違った人から脱落していくという形式で何回か行われました。クイズは「進化」「ゲノム」「脳」という3つのテーマに分かれており、合間には先生による解説が入るので、クイズと先生のお話を両方楽しむことができました。

最初のテーマは「進化」です。「地球は何年前にできたか」「人類は何年前に誕生したか」など比較的簡単なクイズから始まり、子供たちも余裕の表情を見せていましたが、次第に問題の難易度が上がってくると、正解して喜ぶ声や親と相談する声、不正解で悔しがる声などが上がるようになり、会場がだんだん賑やかになりました。人類の進化速度は昔より速くなっており、1万年前の実に100倍であるという話がされると、参加者たちは驚いた様子でした。例えば感染症に対する耐性が急速に増しているほか、脳は3万年前に比べてテニスボール1個分くらい小さくなったそうです。これは、脳が能力を保ったままコンパクトになったのだという説と、昔に比べて頭が悪くなったのだという説があるそうです。

次のテーマは「ゲノム」です。これは、DNAに記された全てのデータのことです。複雑な生物ほどゲノムのデータ量も大きそうに思えますが、実はそうではありません。最初に出されたクイズは「アメーバ、ヒト、ハエの中でどれがゲノムが一番大きいか」で、答えはアメーバです。アメーバのゲノム量は全生物で最大とされ、ヒトの約200倍あるそうです。また、体を構成するタンパク質の種類も、ヒトよりもイネのほうが遥かに多いそうです。これらのことを聞くと、会場からは驚きの声が上がりました。このようにゲノムの視点から見れば人間は中途半端な生き物であるということができます。他にも、ヒトとサルのゲノムは何パーセント同じかという問題も出されました。これは、何と98パーセントも一致するといいます。残りの2パーセントのゲノムの違いがヒトとサルの違いを生み出しているのです。ただ、最近の研究によれば、ヒトとサルを構成するタンパク質の80パーセントには細かい違いがあるそうです。

最後のテーマは「脳」です。この頃にはクイズ大会も白熱しており、1問ごとに喜びの声と落胆の声が上がり、中には脱落してしまい泣き出す子供の姿も。例えば「目の錯覚」は実は視覚情報を処理する脳の働きによって起こることであり、本来は「脳の錯覚」とでも言うべきものだというお話や、ヒトと他の生き物の脳の違いは感情や思考を司る部分である前頭葉の大きさの違いが主であるというお話がありました。印象深かったのは、ヒトの目の画素数はいくらかというクイズでした。選択肢は100万画素、1000万画素、1億画素の3つで、1000万画素はちょうど現在のスマートフォンのカメラ程度の画素数です。子供のほうは脱落してしまったある親子を見ていると、親が100万画素に手を挙げて、その子は違うと思ったのか「やめて、やめて」と半泣きで懇願していました。答えが100万画素だと分かるとその子は目を丸くして「知ってたの?」と。とても印象的な一幕でした。

クイズ大会が終わると、最後にうま味成分を発見した研究者、池田菊苗を紹介するビデオが流され終了しました。子供たちをはじめとして、参加者たちはとても満足した様子でした。