テーマ講義「グローバル時代をどう生きるか」

2010年5月7日(金)、東京大学駒場1キャンパスの学際交流ホールにて国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)前事務局長の松浦晃一郎氏による新入生向けの講演が行われました。この講演は東京大学前期課程のテーマ講義のひとつ「グローバル時代をどう生きるか」の一部でもありますが、この講義の履修生以外の一年生・二年生でも聴講することができる新入生歓迎特別講演でした。

松浦晃一郎氏は、東大法学部在学中に外交官試験に合格、外務省に入省され、その後さまざまな外交活動をされたのち、1999年から2009年までアジア初のユネスコ事務局長として活動された方です。今回は、そうした国際交流豊かな活動の中で得られたことを東京大学の後輩に伝えて下さいました。


松浦氏講演

松浦氏は、「グローバル時代をどう生きるか」というテーマを、戦後の激動期を外交官として生きてきた経験から語っていきました。

松浦晃一郎氏
松浦晃一郎氏

松浦氏が東京大学在学中の1950年代後半は、戦後まもなくということもあり、日本が外交をもって国際協調を果たしていかなければならないという意識が高く、松浦氏の周囲にも外交官志望の東大生が非常に多かったそうです。松浦氏は、当時は国際協調を果たすための手段については議論が多かったにせよ、その国際協調という目的は一致しており、日本という国の在り方について国民全体で議論がなされていたことを指摘し、経済問題に悩むあまり、これまでの外交体制の意義を考慮せず、国民全体での国の在り方に関する議論が行われていない日本の現状に警鐘を鳴らしました。

松浦氏は、これからのグローバル時代を生きる私たちに身につけてほしいこととして、国際コミュニケーションの手段としての英語、そしてグローバルな視点を挙げました。前者については外交活動をしていた際、他国の外交官が口々に「英語がもっとも通じない首都は東京である」と言っているのを聞いたことが印象的だったそうです。発音云々を厳密に考えるより、相手にわかってもらえるように努力する言語学習が大切だとおっしゃっていました。後者については、外交において他国が自国をどのように認識しているかを考えて行動することがグローバルな視点につながるとしていました。具体的には、自国が他国にどのようなコストとメリットをもたらすかを考えて行動するということです。

DVD視聴

松浦氏の講演が一旦終了したのち、ユネスコ事務局長としてどのような活動を行ってきたかを紹介するDVDを視聴しました。そのDVDの中では、松浦氏が就任当時は腐敗していたユネスコの行政・財政の改革を行い、その腐敗した運営状況を理由にユネスコを脱退していたイギリス・アメリカ合衆国を復帰させた功績や、2001年3月、バーミヤンの二大大仏がタリバンによって破壊された事件において、松浦氏がリーダーシップをとって破壊を未然に防ごうとしたことなどがとりあげられていました。

松浦氏へ受講生からの質問

DVD視聴後は、受講生が松浦氏へ質問する時間が設けられました。質問に答える中で松浦氏は、グローバル化にあたっては、国際コミュニケーション能力だけでなく、日本人としてのアイデンティティをもつことも大切であり、このアイデンティティ形成には、その国の歴史と文化が支えとなるので、歴史と文化をしっかりともっている日本はこの点においてグローバル化に有利だと述べました。また、ここでいう文化とは、狭義の芸術的価値をもつものというより、広義の生活様式全体ということであり、文化の多様性をグローバル化の中で保存していくうえでこのことを念頭におかなければならないと強調しており、その一方で、世界遺産とは国にとってはその国のアイデンティティの象徴であるとともに、世界にとっては人類にとって普遍的な価値を有するものであるとして、世界遺産を保護する意義を確認しました。

講演が終わって

私たちはグローバル時代を生きています。だからこそ、自分の根である国、ひいては文化を失ってはならないと思います。