第46回東京大学農学部公開セミナー「私たちのくらしと微生物」

農学部では1991年から毎年2回、予約不要で参加無料の公開セミナーが開催されています。今回は6月に行われたセミナーをレポートしました。


東京大学弥生講堂で、第46回東京大学農学部公開セミナー「私たちのくらしと微生物」が開催されました。開会の挨拶をなさった古谷研農学部長によると、微生物は身近であり人とさまざまな関係を築いているということに注目してもらうことを目的として、このテーマが選ばれたそうです。微生物が人にもたらす効用や危険に関して、3名の先生方が講演なさいました。会場には高校生から年配の方まで幅広い年齢層の聴衆が集まり、ホールが埋まっていました。

初めに、食の安全研究センターのセンター長を務める関崎勉教授が、「食の安全を脅かす微生物」と題して講演されました。微生物によってどのように食中毒が発生するのかを紹介し、その後先生自身の豚レンサ球菌に関する研究を説明されました。食中毒は、肉の表面についている原因菌が不衛生な調理により肉の内部や他の食材へと広がることによって発生するそうです。そのため、菌を付けない、増やさない、殺すという食中毒の予防三原則が効果的だと先生は強調されました。豚レンサ球菌は豚肉の内臓に生息する食中毒の原因菌の1つで、具体的な症状には心内膜炎や敗血症などがあります。菌の中には莢膜で覆われているものがあり、それは白血球に捕食されないため病気の原因となります。しかし、豚の心内膜炎の発生には莢膜のないタイプの豚レンサ球菌も関わっているそうです。発症の機序は未解明ですが、莢膜のない菌が心臓の内膜に付着し、そこに重なって莢膜のある菌が付着して症状を引き起こす、という先生の自説が紹介されました。

次に、水圏生物科学専攻の松永茂樹教授が、「海洋微生物が作る毒と薬」と題して講演されました。フグ毒、海綿動物に含まれる貝毒、海綿動物の抗腫瘍性物質の3つが紹介されました。フグ毒はフグ以外にも多様な生物が持ちます。現在ではフグやスベスベマンジュウガニと共生するバクテリアが原因だということが通説となっているそうです。貝毒の原因物質としては、オカダ酸とアザスピラシドが取り上げられました。オカダ酸は下痢性貝毒の原因で、クロイソカイメンに含まれるオカダ酸は、クロイソカイメンと共生しているバクテリアが生成していると考えられています。ヨーロッパで問題となっているアザスピラシドは日本では貝毒の原因となっていませんが、奄美大島のカイメンから見つかりました。八丈島のカイメンの抗腫瘍性物質はオンアミドで、がん細胞の増殖を阻害し、アオバアリガタハネカクシという昆虫の毒と同じだと紹介されました。どちらの生物のオンアミドも、遺伝子調査で何が合成しているのかわかっています。アオバアリガタハネカクシが持つオンアミドは緑膿菌が、カイメンのオンアミドは数珠状のバクテリアが産生するのだそうです。

最後に、食の安全研究センターの副センター長の一人である八村敏志准教授が、「食品中の微生物でより健康に~免疫調節の話を中心に~」と題して講演されました。乳酸菌などがアレルギー抑制と感染防御機能増強の効果を生じることに関する内容でした。リンパ球のタイプの1つとしてT細胞があり、アレルギーはそのT細胞の種類のバランスが崩れることによって生じます。乳酸菌はTh1という細胞が増えるのを促す細胞間物質を出したり、Th2という細胞の自死(アポトーシス)を誘導したりすることで、アレルギーを抑制するそうです。ところで、一般的な感染症の1つであるインフルエンザへの感染は、IgAという抗体がウィルスを攻撃することによって防御できます。乳酸菌は樹状細胞に作用して細胞間物質を出させることで、このIgAを間接的に増やすこともできるそうです。微生物が健康につながるメカニズムが、図も多用されてわかりやすく説明されていました。

全体として、微生物のさまざまな働きやその原因が日常起こりうる病気や現象と結びつけて紹介され、微生物をより身近に感じられるセミナーとなっていました。農学部では年に2回公開セミナーが開かれていて、次回は11月に予定されています。興味のある方は、セミナーに関するwebページを参照してみてはいかがでしょうか。

リンク

農学部公開セミナー:http://www.a.u-tokyo.ac.jp/seminar/index.html