大西卓哉宇宙飛行士長期滞在ミッション報告会

2017年6月12日に東京大学大学院工学系研究科と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開催した、「大西卓哉宇宙飛行士長期滞在ミッション報告会」の様子を取材しました。この講演会は東京大学工学部航空宇宙工学科の卒業生である大西卓哉宇宙飛行士に、昨年国際宇宙ステーションに長期滞在された体験をお話ししていただくために企画されました。会場となった安田講堂には小学生からお年寄りまで、多くの人が集まっていました。

会場の安田講堂

初めに、東京大学の五神真総長とJAXAの奥村直樹理事長が開会の挨拶をされました。五神総長は、大西宇宙飛行士は「知のプロフェッショナル」の模範であり、学生諸君には夢を現実にする力を学び、大学で何を学ぶべきか考えてほしいと述べました。奥村理事長からは、国際宇宙ステーションにある日本の実験棟「きぼう」の紹介が行われました。「きぼう」ならではの特徴として、様々な観測機器を取り付けられる船外プラットフォームや、小型人工衛星を放出できるエアロックなどが挙げられました。次に大西宇宙飛行士が宇宙へ持って行った東京大学の旗の返還式が行われました。

宇宙から帰ってきた旗

第1部では、大西卓哉宇宙飛行士が長期滞在ミッションの体験をお話しされました。まず基本的な説明として、宇宙ステーションの行き帰りに使用したソユーズ宇宙船、ロケットの発射場が低緯度地域に作られる理由、国際宇宙ステーションについてなどお話しになりました。

大西卓也宇宙飛行士

続いて、ビデオで大西宇宙飛行士が「きぼう」で行った実験が紹介されました。例えば、小動物飼育ミッション。これは、マウスを無重力状態(厳密には微小重力と言うそうですが)で約1か月飼育し、地球に持ち帰り分析をするという実験です。大西宇宙飛行士はエサのカートリッジを交換したり、水をあげたり、飼育ケースの掃除をしたりされました。大西宇宙飛行士が長期飼育したマウスはすべて生きて地球に帰ってきたということで、これは世界で初めてのことです。無重力で生活したマウスは筋肉などが衰えていたほか、遺伝子の発現領域が異なっていたそうです。他には、第2部で紹介される実験や液体が燃える仕組みを解明するための燃焼実験の組み立て・初期検証、大西宇宙飛行士がロボットアームを操作してのシグナス補給船のキャプチャなど、多くのミッションを成功させたそうです。

次に宇宙ステーションでの生活についてお話しになりました。学術的な実験以外に地球と中継を繋いで実験を行ったそうです。ビデオではコーヒーと牛乳の球を空中でくっつけコーヒー牛乳を作る実験(2種類の液体は一気に混ざるわけではありません)、自転車をこぐように足を回すと体が回転するという実験などが紹介されました。また、大西宇宙飛行士が宇宙で経験された様々なエピソードもお話しになりました。「きぼう」から超小型衛星が放出された時はまるでクリオネが泳いでいるように見えたこと、持って行ける宇宙日本食は1割だけなので自分へのご褒美として食べたこと、ソユーズの着陸地点で日本のメディアにインタビューを受けた時は舌の重さを忘れてしまっていて喋りにくかったことなど、興味深いお話が多くありました。

最後に質疑応答の時間が設けられ、発射の時の恐怖感をどう克服したかという質問には、たくさん訓練をしたのであまり恐怖は感じなかったとお答えになったり、最も大変だった訓練は何かという質問に対し、ソユーズの訓練はすべてロシア語で行われるうえに勉強量が多かったので大変だったとお答えになったりしました。航空宇宙工学科の学生からの、今までしてきたことの中で役立ったことは何かという質問には、人力飛行機を作るサークルで得た経験が社会に出て役立っているので勉強以外の活動にも取り組んでもらいたいとお答えになっていました。

休憩をはさんだあとの第2部は、「きぼう」で行われた最新の研究成果が紹介されました。

第2部でお話しになった先生方
左から、山崎さん、大西宇宙飛行士、石川教授、中須賀教授、古川宇宙飛行士、菅教授。

JAXAの石川毅彦教授(東京大学工学部機械工学科卒)は静電浮遊炉について講演されました。静電浮遊炉とは、静電気力で浮かべた粒子にレーザーを当て、超高温状態での物性などを分析するための装置です。地球上にも静電浮遊炉はありますが、宇宙ではより小さな静電気力で粒子を浮かばせることができ、誘電率の低い物質(金属の酸化物、セラミックスなど)も調べることができます。新しい材料の開発に役立てられるということでした。

東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻の中須賀真一教授は小型衛星について講演されました。先述の通り「きぼう」には小さな人工衛星を宇宙に放出するエアロックがあります。会場に実物をお持ちになっていましたが、片手で持てるくらいの本当に小さな人工衛星でした。東京大学からは7基の小型衛星が発射されているほか、自力で人工衛星を打ち上げることのできない国と協力して発射することも行っているそうです。

JAXAの古川聡宇宙飛行士(東京大学医学部医学科卒)は宇宙医学について講演されました。ご自身の経験も交えながら、宇宙空間では骨量減少・宇宙酔い・視機能低下・免機能低下などの身体の変化や、放射線の影響、心理的な影響が生じると説明されました。JAXAで現在研究されているテーマとして、乳酸菌を宇宙で取ったときの免疫機能についての研究が紹介されました。

東京大学理学系研究科化学専攻の菅裕明教授は創薬について講演されました。菅教授は東大発ベンチャー ペプチドリーム株式会社の共同創業者で、ペプチドリームでは「特殊ペプチド」に注目して創薬ビジネスを行っています。一見宇宙との関わりがないように思えますが、宇宙で作った高品質のタンパク質結晶を分析することで、薬の研究が発展するのだそうです。

最後に大西宇宙飛行士が、「宇宙から見ると地球は大きいが、日本は小さい。日本が先進国の一員でいられるのは、科学技術のおかげなので、ぜひ科学に興味を持ってほしい」と述べ、講演会が締めくくられました。

余談ですが日本人宇宙飛行士は11人いて、うち5人が東京大学出身です。五神総長は開会の挨拶でこのことに触れ、「東京大学は宇宙飛行士養成大学」だと言って会場の笑いを誘っていました。司会の山崎さん、講演なさった古川さんと合わせると、3人の宇宙飛行士が登壇されました。

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担当: , UTLife