平成23年度入学式

入学式

2011年4月12日(火)、東京大学の平成23年度学部入学式・大学院入学式が本郷キャンパス理学部1号館の小柴ホールで挙行されました。入学式は例年武道館で挙行されていましたが、今年度は東北地方太平洋沖地震の深刻な影響を考慮して、新入生代表33名のみが出席する形での挙行となりました。


学部入学式

入学生代表が入場し、列席者の紹介が終了すると、東北地方太平洋沖地震の犠牲者に黙祷が捧げられ、学部入学式が始まりました。

濱田総長

濱田純一総長は式辞の中で、東北地方太平洋沖地震の惨禍を踏まえて、知識と現場を結びつけることの重要性を強調しました。それに関わる形で、小規模ながら入学式を挙行する意義を、「大震災の惨禍を皆さんの生涯にわたる知的な生活の原点にあるものとして心に刻みこむ機会」、「膨大な人々の悲しみや痛み、苦しみを正面から見つめ、その惨禍と皆さんがこれから学ぼうとしている知識との関わりを真剣に考えてもらう重要な機会」として位置づけました。その中で、大震災の人的被害を数字によってのみ捉えるのではなく、犠牲者の一人一人が自分たちと同じように生活を送り、喜び悲しみ、生きていたことを想像し、それが一瞬にして失われたことの重さを受け止めてほしい、と語りました。そして、その重さを受け止めるとともに自分の中に吸収した現場との緊張感を、これから知識を学び、さらにそれを社会で生かしていく時に、絶えず持ち続けることも惨禍に対する行動として重要である、と新入生に道しるべを示しました。


長谷川教養学部長

続いて、教養学部長の長谷川壽一としかず教授から式辞が述べられました。その中で、大震災によって日本および世界の大きな転換期に立ち向かう世代となる、大震災後の東京大学一期生である新入生は何ができ、何をすべきか、という問いが立てられました。まず、大震災および原発災害によって、人間の思慮や知、科学技術の限界が白日の下に晒されたとしても、災害後の社会を構想・創出していくための最善のツールは、やはり思慮と知と科学技術であることには変わりないことを強調したうえで、「光」あるいは「希望」をどのように描くか、という問いを発しました。かつて日本は自由・民主主義・豊かさという「光」に導かれて戦後復興と高度成長を成し遂げたが、翻って今、今回の被災地と日本社会にはどのような「光」が見えるか、という問いです。このことを語る中で東京大学社会科学研究所の玄田有史教授が大震災の前に述べた予言的な言葉が引用されました(以下引用)。

希望に関するメッセージとは、未来に起こしてはならないリスクのイメージを共有することの大切さです。特に政治の役割は、世の中の人たちに一律に希望を押し付けることではない。むしろ過去の凄惨な歴史を振り返り、今後起きてはならないことを、起こらないように行動することです。だからこそ過去の厳しさに向かい合わないと希望は描けない。

そして、時代の節目に巡り会った新入生には自分自身の言葉で希望について語ってほしい、と述べ式辞を締めくくりました。


久保日本学士院院長

次に、来賓としてお越し下さった久保正彰まさあき日本学士院院長から祝辞が述べられました。その中では久保院長が大学院に入った頃に出会った東京大学文学部の学生たちが情熱と実行力をみなぎらせていた姿が語られました。そして「眼に見えぬもの、耳に聞こえぬものに向かって鋭く思いを定め、追いつめてそれを捉え、それに新しい形を与えて表現していく学問の炎」によって新しい自分たちの大学を創り出すことができるのは、今日から東大生となる新入生の心意気と実行力以外の何者でもない、との言葉で結ばれました。


入学生総代

最後に、入学生総代の森谷浩幸もりやひろゆきさん(理科二類)から宣誓が行われました。宣誓の中では、東京大学の学生であるという自覚のもとで真摯に学問に取り組むこと、研究が人類の平和と福祉の発展に資するべきものであることを認識しながら、研究の方法および内容をたえず自省して学問に励むこと、などが語られました。そして日本が国難に直面する中で、将来において社会に貢献できるよう、東京大学の学生として日々の努力を怠らず、大学生活を有意義なものとすることが誓われました。

新入生代表の退場とともに入学式は幕を閉じ、3155名(そのうち留学生は39名)の新しい東大生の入学が静かに祝われました。

大学院入学式

大学院入学式も小柴ホールにて、入学生代表の33名のみが出席する形で挙行されました。今年度の大学院入学・進学者は全体で4627名(そのうち留学生は534名)、内訳は修士課程が2909名、専門職学位課程が370名、博士課程が1347名でした。入学生代表が入場し、列席者の紹介が終了すると、東北地方太平洋沖地震の犠牲者に黙祷が捧げられ、大学院入学式が始まりました。

濱田総長

濱田総長は式辞の中で、科学の意味のゆらぎ、科学の役割といったことに焦点をおきました。その中で、近年、科学研究に関わる予算に政府予算の編成過程で削減の動きが出ており、科学に対して曖昧な信頼と曖昧な不信が存在していた中、東日本大震災によってより本質的な問いかけがなされたことが指摘されました。それはすなわち、科学の力を結集した巨大堤防が破壊されたこと、原子力発電のシステムがコントロールできなくなったことによる、科学の力に対する無力感、あるいは懐疑でした。濱田総長は、こうした状況における科学の役割は、「科学の領分の拡大に全力を尽くすことは当然として、今の科学でできることとできないことの区分を明確に示すとともに、その限界を乗り越えるために苦闘している姿を率直に見せること」であると述べました。こうした科学の本領を突きつめていくことで、科学の社会的活用を行う人々の最大限の合理的判断の基盤を提供することの重要性が強調され、式辞は締めくくられました。


長野薬学系研究科長

研究科長式辞は薬学系研究科長の長野哲雄教授が務めました。長野教授は福島第一原子力発電所の事故やイレッサ訴訟(※1)に対する東京地裁の判決に触れ、科学が進歩しその波及効果が大きくなるに従って、科学の持つ負の面が顕在化してきたことを指摘します。しかしながら、こうした科学の負の面を克服する手段もまた科学に他ならないと強調する長野教授。これから大学院で科学の戦いの最前線に立つ新入生に対し、易きに甘んじることなく自らを厳しく律し、物事の本質を見通す力を養ってほしいと述べました。長野教授はまた、新入生が世界の人々のリーダーとして活躍できるよう、「高い志を持て、またそれは自らの私欲に根差すものではあってはならない、そしてその志を成し遂げるために高い能力だけではなく強靭な心身を持て」と語り式辞を締めくくりました。


サー・アンソニー・ジェームス・レゲット

続いて、2003年度のノーベル物理学賞を受賞し、2010年に東京大学名誉博士となったイリノイ大学教授サー・アンソニー・ジェームス・レゲット(Sir Anthony James Leggett)に祝辞をいただきました。祝辞の最初には日本語で、東北地方太平洋沖地震の犠牲者にお悔やみを申し上げる、被災地の復興を応援している、と述べられました。レゲット教授からは自分が入学生たちと同じ年齢だった頃の経験が語られました。オックスフォード大学の文系学部に進学し、ギリシャ語、ラテン語、古代史や近代哲学を学んだのち、一生の仕事として探求したいのは物理学だと気づいたこと、日本の京都大学の研究室で学んだこと、などが語られ、そうした経験から、入学生には東大での勉学の合間に様々な面で視野を広げてほしい、とのメッセージが贈られました。さらに、学問生活を実りのある経験にするためのヒントとして、自らの好奇心に従って行動すること、興味深い問題に遭遇したら既に解決策があるかないかはあまり気にしないこと、誠実に行なった作業を無駄だと思わないこと、研究と指導の両方に携わるならば、研究と同じくらい真剣に指導も行うこと、の4つが語られました。


入学生総代

最後に、入学生総代の稲井智義いないともよしさん(教育学研究科)から宣誓が行われました。宣誓の中で稲井さんは、規模を縮小せざるを得なかった各地の学校の卒業式で、何とか卒業生の門出を祝おうと心を砕き知恵を集める教師たち。また、社会に対する責任を果たすため叡智を結集させる研究者たち。この両者の姿を見て、狭い専門や国境の壁を越えて広く社会に対する責任を果たすため、未来への準備を着実に進めたいという決意を新たにしたと語りました。その上で、多くの先達を見習いつつ、知の創造への参画を通じて研究者としての研鑽を積みながら、その責任を社会に対して果たしていくことを誓いました。

新入生代表の退場とともに入学式は幕を閉じ、4627名の大学院入学・進学者が静かに祝われました。


※1 肺がん治療薬「イレッサ」の副作用を巡る薬害訴訟。イレッサは人によって肺がんに対し劇的な治療効果を示すことがある一方で、肺炎を発症し死に至ることもある。


理学部一号館
安田講堂

リンク

平成23年度入学式(学部)総長式辞(東京大学公式ホームページ)

平成23年度入学式(大学院)総長式辞(東京大学公式ホームページ)