ノーベル賞に輝いた『蛍光タンパク質』のその後

佐藤先生
人類に多大な貢献をした者に与えられる世界的な栄誉であるノーベル賞。自然科学の研究に対しては物理学賞、化学賞、生理学・医学賞の3部門があります。日本人がノーベル賞を受賞すれば国内では大きなニュースになりますが、科学研究はノーベル賞受賞がゴールではありません。ノーベル賞受賞後にも研究は進むのですが、それがメディアで注目されることはあまりありません。

東京大学大学院総合文化研究科の佐藤守俊准教授が担当された今回の講座「ノーベル賞に輝いた『蛍光タンパク質』のその後」では、2008年にマーティン・チャルフィー博士、ロジャー・Y・チェン博士とともにノーベル化学賞を受賞した下村脩博士の研究にスポットが当てられました。下村博士は1962年に緑色蛍光タンパク質(GFP)を発見し、長い年月を経てノーベル賞受賞に繋がりました。

蛍光タンパク質とはその名の通り光を発するタンパク質のことです。下村博士はオワンクラゲが光ることに注目して研究を進め、GFPの抽出に成功しました。この間、下村博士は85万匹ものオワンクラゲを捌いたのだそうです。GFPは鳥かごのような構造をしていて、「鳥」にあたる中心部分が光るようになっています。鳥かごの部分には、中心部分を水分子などから守る働きがあるそうです。中心部分には共役系(単結合と二重結合が交互に並んでいて電子が広く分布する構造)があり、その部分が光を吸収して励起し、吸収光とは少し異なった波長の光を放出することにより発光するという仕組みです。

佐藤先生
しかし、GFPが発見された直後は研究はあまり活発化しませんでした。この期間を佐藤先生は「研究者がクラゲと格闘していた古き良き時代」とおっしゃいました。その後1990年代に入ると、GFPを作る遺伝子がダグラス・C・プラッシャー博士らにより特定されました。チャルフィー博士・チェン博士がこの遺伝子を他の細胞に組み込むことに成功すると、GFPの研究は飛躍的に発展し始めました。GFPを組み込むことで細胞を発光させ、1つ1つの細胞の動きを追うことができるようになったのです。GFPは細胞を構成するタンパク質に比べて小さいため、細胞に付加してもその働きを阻害しないという利点があるそうです。講義では、受精卵の遺伝子にGFPの遺伝子を組み込むことで細胞分裂を可視化した動画が流されました。また、GFPの構造が明らかになったことにより、GFPの構造をわずかに変えることで蛍光の色を変えて青や黄色などの蛍光タンパク質を作ることにも成功しました。さらに、オワンクラゲ以外の海洋生物からも蛍光タンパク質が発見されるようになり、講義ではイソギンチャクが持つDsRed(1999年発見)や、ウナギが持つUnaG(2013年発見)が紹介されました。この他にもさまざまな蛍光タンパク質が発見されているそうです。複数の色を利用できるようになったことにより、細胞を色分けして可視化することも可能になりました。このように、ノーベル賞受賞後の今日もGFPは広く用いられています。

次に、蛍光タンパク質のさらなる応用の話に移りました。ただ細胞を可視化するだけではなく、ある物質を検出することなどもできるのです。まず、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)という現象が説明されました。2つの異なる色の蛍光タンパク質が近くにあるとき、一方が光により励起したらそのエネルギーがもう一方に移動してそちらが発光するという現象です。蛍光タンパク質の色によって、励起に必要な光の色(波長)が異なります。ですから、例えば青と黄色の蛍光タンパク質があるところに青の蛍光タンパク質を励起させる光のみを当てた場合、普通は青い光が発生しますが、2つの蛍光タンパク質が近くにあるときはFRETにより青ではなく黄色の光が発生するということが可能です。この現象を利用して、カルシウムイオンを検出する仕組みが講義では紹介されました。カルシウムイオンと結合して縮むタンパク質の両端に2つの蛍光タンパク質を繋げることで、カルシウムイオンがあるときに2つの蛍光タンパク質が近づいて色が変わるのです。カルシウムイオンの可視化は、脳活動のマッピングなどに応用されています。

佐藤先生
最後に佐藤先生は、光作動性イオンチャネル(ChR)の話をされました。イオンチャネルとは、細胞の中と外をつなぐタンパク質で、普段は閉じていますが特定の条件により開き、特定の物質を通過させる機能を持ちます。ChRは「光作動性」という名の通り特定の色の光に反応して開くもので、緑藻が青い光に寄っていく性質に関係しているそうです。講義では、神経細胞にChRを発現させることで、光により神経伝達を自在に操作できるというお話がありました。具体例として、マウスの脳の神経細胞にChRを導入し、頭に光ファイバーを刺して光を当てることでマウスを操作するという実験が紹介されました。ChRは今後、神経疾患や心臓疾患の治療に応用される可能性があるとのことです。

講義は約1時間で終了しましたが、その後約30分間設けられた質疑応答の時間では、質問が途切れることがありませんでした。10人以上の高校生たちが熱心に質問を行い、佐藤先生はその多くに「いい質問ですね」と述べて感心していらっしゃいました。高校生たちの興味は多岐にわたり、ChRの研究を人間に応用する際の倫理的問題や蛍光タンパク質が海洋生物に多い理由、色素で細胞を染色するのと蛍光タンパク質を使用するのとの違いなど講義の内容に関するものから、佐藤先生が蛍光タンパク質の研究を始めた理由、佐藤先生の好きな蛍光タンパク質は何かなど先生に関する質問もありました。佐藤先生がこの研究を始めた理由を「面白いから」と答え、「なぜ面白いのか」との質問には「今日の話面白かったでしょ」と答えると会場に笑いが起きました。解散後も質問を求める人たちが列を成し、20分以上に渡って質問が続きました。基礎的な知識を学んでいる高校生にはなかなか目にする機会が無い最先端の研究の状況を知ることができるのは、東大ならではといえるでしょう。


リンク

高校生のための金曜特別講座:http://high-school.c.u-tokyo.ac.jp/index.html