極低温での量子物理の世界

加藤先生

11月8日に開催された金曜講座は総合文化研究科の加藤雄介先生のご担当で、テーマは「極低温での量子物理の世界」と少し難しい物理学のお話でした。取り上げられたのは「超伝導」という現象とその「秩序」について。超伝導は高校物理では扱われない内容ですが、今話題のヒッグス粒子の研究にも利用される重要な性質なのだそうです。聞きなれない単語に首を傾げる聴講者も一部見られる中、講義は始まりました。

1911年、オランダの物理学者カマリン・オネスは、水銀を4.2K(およそマイナス269℃)まで下げると電気抵抗が突然無くなってしまうことを見つけました。このように、金属や化合物を非常に低い温度まで冷やしたときに電気抵抗が急激に小さくなる現象を「超伝導」と呼びます。発見以降、超伝導の研究は大きな発展を見ませんでしたが、1933年、超伝導状態になると磁場を通さなくなるということ(マイスナー効果)が新たに分かり、再び注目を浴びるようになりました。

高校の教科書にも載っている水の状態図(温度と圧力に対して水が固体、液体、気体のうちどの状態をとるかを示した図)と比べてみると、超伝導状態をイメージしやすくなります。水の固体-液体転移と超伝導状態-常伝導状態(超伝導でない状態)とは関係が似ており、水の状態変化に引きつけて超伝導を考えることができるのです。具体的には、水の状態図の「圧力」を「外部磁場」に、水でいうと液体で高く固体で低い「粒子密度」を「磁束密度」に読み替えて対応させます。超伝導は温度が低く外部磁場が小さいという条件で起き、またそのとき内部の磁束密度も低くなっているため、水でいうところの氷のような状態といえます。

氷のような固体の中では、粒子は規則的に並んでいます。液体や気体の状態と比べて粒子の性質が異なっているというよりは、粒子の位置に関して秩序を持っているということです。その秩序ゆえに、固体は変形に対する「固さ」を併せ持っています。その固さは固体特有の弾力を生み、またその弾力は固体特有の波を生むのです。

では、氷と対応する超伝導体は常伝導体に対してどのような性質をもつのでしょうか。原子や電子の位置だけでは、超伝導状態と常伝導状態を見分けることはできません。両者を区別するには、電子の運動に着目します。超伝導体の中の電子にはそれぞれ、同じ速さで逆方向に運動している電子が存在します。このような電子の組をクーパー対と呼び、2つの電子はそれぞれ逆の速度をもつため、当然ながらクーパー対の重心速度はゼロとなります。つまり、クーパー対を1つの粒子と見ると、超伝導体の中では全ての粒子が止まっていることになります。常伝導体中の電子も全体としては止まっているので全電子の重心の速度はゼロですが、電子はおのおの動いており、クーパー対のようなペアは作れません。この、クーパー対の運動状態がそろっているということこそが、超伝導体のもつ秩序なのです。そして、この超伝導の秩序は、固体が変形に対する固さをもつのと同様に、荷電粒子の運動を変化させるもの、すなわち磁場に対して固さを生みます。足並みのそろったクーパー対は、協力して内部の磁場を打ち消すのです。上述のマイスナー効果もこのはたらきによって生じます。

「秩序が生む固さ(復元力)は新たな波を生む。」とは2008年にノーベル物理学賞を受賞した理論物理学者南部陽一郎氏の言です。この考えを裏返せば、秩序状態そのものを見ることができなければ、それが生む波を見つければいいということになります。近年話題のヒッグス粒子もこの発想に基づいて研究されており、秩序と固さと波というつながりは固体や超伝導体だけでなく広く物理の世界で通用する見方なのです。

講義が終わると、最初は恐る恐る、次第に活発に、会場や遠隔配信先から質問が上がりました。物理学と縁遠い生活をしている筆者には難しいお話でしたが、終了の時間になっても何人かの高校生の方々は先生のもとで質問を重ねていました。


リンク

高校生のための金曜特別講座:http://high-school.c.u-tokyo.ac.jp/index.html