小寺千絵さん、三宅博行さん


一般的には、結婚や出産などというのはまだまだ自分にとって縁遠いものと思っている大学生が多いのではないだろうか。しかし、「学生結婚」という選択肢を選ぶ人たちがいるというのも事実である。今回は、大学に通いながらの結婚、出産、そして子育てを経験された小寺千絵さん・三宅博行さん夫妻にお話を伺った。お二人それぞれの生き方を知ることを通じて、東大生の人生における「選択」について考えてみたい。

東大を目指したきっかけ

小寺千絵さん(左)と三宅博行さん(右)
小寺千絵さん(左)と三宅博行さん(右)

(小寺) いろいろなことに興味があって、新しいことを知ったり考えたりすることがすごく好きでした。文学部に行こうかなと迷ったこともあったのですが、子供のころからずっと「生きているってどういうことなんだろう?」という疑問があって、生命科学をやりたいと思ったんですね。でも、医者になりたいという気にはならなくて、「何か新しいことを知りたい、考えたい」というのを仕事にできるのが研究者なのかなと思ったので、研究者を目指しました。そして、研究者になるには東大が良さそうだと思ったので、東大に行きたいと考えるようになりました。

(三宅) 僕はあんまり深く考えてはいませんでした。科学好きで、特に生物には興味があったんですが、研究者が面白いかなぁとぼんやり思っていたくらいでした。どこの学科に行こうかまでちゃんと考えてなかったんですよ。東大は進学振り分けまで考える期間があるし、行って困ることはないかなと思って東大にしました。あと、出身が広島なんですが、地元から出たかったっていうのもあります。

学生生活

(小寺) 私はまじめな学生だったので(笑)、授業はかなりみっちり取っていました。土曜日にも授業を入れたりして、週27コマとか30コマとか取っていましたね。サークルにも入っていましたし、車の免許を取ったり、アルバイトもしたり、何でもやっていました。サークルは、私も三宅も古典ギター愛好会でした。

(三宅) 僕も27コマくらい取ってはいたんですが……。1日1コマ出れば御の字で、点数もだんだん下がってきて、という感じでした。勉強は嫌いではなかったんですが、好きな科目ばかりやっていたので、その科目の点数だけは良い、というような状態でしたね。進振りのときは、やっぱり生物が面白いだろうということで、理学部の生物化学科と教養学部の生命・認知科学科などで迷ったんですが、最先端っぽさや本郷に対する憧れのようなものもあって、生物化学科を選びました。

(小寺) 進振りのときには、私も生物をやろうというのは決めていたんですね。東大に入る前に1年間別の大学で獣医学を勉強していたんですが、そのころに「しまった、私はもう植物の研究はできないのかしら」ってちょっと思ったんです。そういうこともあって、いろいろ選択肢はあったんですが、最終的には理学部生物学科の植物学コースにしました。

(三宅) 本郷に進学してからも、あんまり大学には行っていませんでしたね。そもそも、生命機械論のように「生命は単純な化学反応の集積に還元して記述できる」、というような議論に影響を受けていたんです。でも、今後数十年でいろんなことが解明されるのは間違いないけど、それで直接ひとの生活が劇的に変わるとは思えない、とも感じるようになりました。それで、研究室にこもって試験管やデータを相手に根気よく作業を続けるという生活に魅力を見出せなくなってしまい、それよりは人の心理や行動、個人差のようなものに理屈をつけるのが面白いなと思うようになりました。ミクロの生物学からマクロなほうに興味の対象が変わったんですね。

(小寺) (三宅に)生物化学に行ったっていうのも大きかったのかな。生物系の中でも特にミクロなところだしね。

(三宅) そうだね。授業はほとんど3年生で終わりだったのですが、4年生のときはみっちり卒業研究をしている人たちの中で僕は研究をしないで、留年してしまいました。そのころには大学院では建築か認知心理の勉強をしようと思うようになっていたので、院試の準備をしてましたね。以前、UROPという、生産技術研究所の研究室で、半年で軽い卒業研究くらいの研究をするプログラムを取っていて、建築の研究室にお世話になりました。そのときに、建築は、徐々に成熟しつつある技術がとても有機的(さまざまな分野や状況が複雑に絡まりあっている、という意味で)に人間に関わってくる場であるということに気がつきました。そこで、建築系の分野の中でも、人間の側の反応を解析して、それをどう建物にフィードバックできるか、というような、心理学的なことをテーマにしている研究室をいくつか受験して、大学院からはそちらの方向に進むことになりました。

(小寺) 院試に受かって生物化学の先生のところに「卒業させてください」って言いにいったら「知らん!」って言われて(笑)。

(三宅) そうそう。卒業させてくれるだろうと思って、半年くらい顔を出していなかった研究室に行って「大学院に受かったのでバチェラー(学士号)が欲しいんですけど……」って言ったら「そんな都合は知らん!」って言われました。最後には学科長の先生にお願いしてとりなしていただき、なんとか卒業できました。

(小寺) 私はまじめにやってましたよ(笑)。進学したのがフィールドワークもあるところだったので、山に登ることもありましたし、授業を受けたり実験をしたり、みんなとお酒を飲んだり、普通にやっていました。大学院への進学は、研究者になりたいと思っていたので、あまり迷うことはなかったですね。私自身は、特にいきものが生きている”メカニズム”に興味があったので、そういった研究をしている研究室に進学しました。

学生結婚について

(小寺) 私が1年の終わり、三宅が2年の終わりくらいで、下北沢でご飯を食べているときに「学生結婚したらもしかしたら学費が安くなるかも」という話が出たのが最初のきっかけですね。学費など経済的な面とも併せて、わざわざ外で待ち合わせて会うよりも、家が同じほうが楽なんじゃないかということもあって、結婚することにしました。やってみたら楽かもしれないし面白いかもしれないし、嫌になったらやめればいいと思っていたので、さほど大きな決心ということはありませんでしたね。

(小寺) 学費は、学部生のときには安くならなかったんですが、大学院では学費免除をいただけたのですごく助かりました。生活も楽なんじゃないかと思いますね。面倒なこともある、けど、まだ結婚生活をやめてはいないので、大きな問題はないということなのじゃないでしょうか(笑)。あとは、籍を入れたほうが親が安心するとか、社会的に都合が良い、ということもありますね。デメリットとしては、今はまだ夫婦別姓が認められていないので、まずは苗字ですね。あとは、やはりまだ「女性は家庭を守る」という意識がある方もいらっしゃるので、「結婚したらもっと家にいたほうがいいんじゃない?」ということを結婚して2~3年は言われることもありました。でも、もう今となっては「この娘は仕方ないのね」と思われているみたいです。子供は、学部生のときに1人と、修士のときに1人産みました。

(三宅) 子供を育てるのは学生なりのメリットも多いと思いますよ。学生のときはなんだかんだ言ってひとりでする作業が多いので、たとえば保育園から電話がかかってきて急に迎えに行かなきゃいけないようなときでも、とりあえずそのときには迎えにいって看病して、できなかった分の作業は徹夜でカバーする、ということが可能だけど、会社では、たとえば打ち合わせ中にいきなり電話がかかってきたら簡単には動けないですからね。そういう意味では学生のほうが、時間の融通がきくので、楽なんじゃないかと思いますね。奨学金やバイトもけっこう大変ではありますが。

(小寺) そうですね、学生というのはやはり融通はききますね。私はもともと産むなら学生のうちだろうと思っていたんですね。私の分野では、研究職だと、博士を取った後まずはポスドクという任期制の研究員になる場合が多く、いわゆる安定した終身雇用の働き方というのが当たり前ではないんです。誰もが納得するような状態になってから子供を持とうと思うと持てない可能性もあって、どこかで思い切って産むんだとしたら、体力もあるし、早いほうがいいんじゃないかなと。でも、実際には想像していたほど大変ではありませんでしたし、必要があれば、なんとか対処するんですね。なので、子供を持ってみてから考えると、35歳とか40歳とかでもそれはそれで何とかなったのかなと思います。

現在について

0to1作成の活動紹介ポスターの前で。
0to1作成の活動紹介ポスターの前で。

(小寺) 私は、指導教員の異動などがあって、今は駒場キャンパスにあるラボで研究をしています。あと、こちらは週末に本郷で集まることが多いのですが、理学部の有志が中心となっている「0to1(ゼロトゥワン)」という団体の活動にも参加しています。具体的には、大学院生が、異なる専門の研究をしている人たちと互いの分野について話したり勉強し合ったり、サイエンスに関わる様々なテーマで議論をするなどの活動と、それに併せて、いわゆるアウトリーチ活動ですね、高校に出張授業に行ったり、オープンキャンパスのときにオブジェを置いてみたりと、普段サイエンスに触れない人にもちょっと触れてもらおう、という活動などをやっています。参加者のモチベーションは様々ですが、サイエンスが好きだということは基本にあって、そこで、自分の研究をするだけではなくてちょっと周りのことも見てみようとか、この先社会の中でサイエンスがいい形で先につながっていけば嬉しいという気持ちなどは共通でしょうか。私は、もともとは自分の好きな研究だけやっているのでも良いかな、と思っていたほうなのですが、子供を育てるようになって、関わる人が増えたり、子供が育って生きていく未来のこともちょっとは考えるようになったりして、社会というのをすごく意識するようになったんですね。それで、こういった活動にも興味を持つようになりました。(三宅に)君もいたよね、就職する前。

0to1によるサイエンスアート。三宅さんのデザイン。
0to1によるサイエンスアート。三宅さんのデザイン。

(三宅) サイエンスとか科学技術とかって、間違いなく面白いんだけど、難しがって敬遠されてしまう面もあると思うんですね。もったいないことだと常々思っていました。それに加え、以前取っていた、東大博物館の展示の企画をしている先生のゼミで、実際の展示企画に関わりながら自分の見つけた「面白さ」を人に伝える手段や方法について考えたことがいい経験になりました。その経験・手法を科学でもトライしたいと思って参加しました。写真は、さまざまな分野で繰り返し出てくる螺旋などの特徴的な形状を共通点とすることで、個々の分野にとらわれない視点から科学を見たいという考えで製作したものです。

(小寺) 高校に出張授業に行くプロジェクトでは、私も自分の母校に行って授業をしたんですが、やっぱり高校生が喜んでくれるのは嬉しいですし、こちらも勉強になります。それに、「0to1」にはいろんな専門の人がいて、自分ひとりではわからないようなことも勉強できるので、興味の幅が広がったりこれまで知らなかったことを新しく知ることができるのも面白いです。そうやって集まった人たちがさらに異なる経験や価値観を持った人たちとつながることによって、また新たな経験の輪が広がって、嬉しい、楽しいと思える人が増えていくというのも素敵だなと思いますね。

(小寺) もう一つ、「東大PIGGYBACKS」という団体にも参加しています。大学院生だと、お子さんがいる方は少なくないんですね。ただ、少なくないとは言ってもやはりマイノリティですし、いろいろ不便はあるので、そういう人たちの間で情報を共有したり、愚痴を言い合ったりできるようなサークルを作りたいということで、研究をやっていきたいけど子供も育てたいっていう人たちが集まって情報交換や交流を行っています。メンバーは、研究をしているので強い知的好奇心を持って学問に向かっている人々ですが、お子さんがいるせいか、なんというかたくましく、賢く柔軟性もあって、とても面白いコミュニティですね。

LPAによる照明デザイン(国際フォーラム)
LPAによる照明デザイン(国際フォーラム)

(三宅) 僕は、建築学専攻に行ったときにはすでに、研究だけを最終目標にしようという考えはなくて、理屈をつけて考えることと、実際にものを作ることを両立したいという気持ちだったんですね。最初は、街をぶらぶら歩くときに人がどういう仕組みで経路を選択しているか、みたいな論文をたくさん読んでいました。それが、大学の集中講義で面出薫(めんで・かおる)という、照明デザイナーで武蔵野美術大学の教授でもある先生が講義に来ていて、その先生の発言が面白くて。今勤めているのがライティング・プランナーズ・アソシエーツという会社(LPA)なんですが、その人が代表の照明デザイン事務所です。建築照明だと東京国際フォーラムや京都駅ビル、建築以外では表参道のイルミネーションや明治神宮のライトアップなどを手がけています。建物を建てるときの照明計画を行うのが7割くらいで、あとの3割がライトアップや都市全体の光計画、という感じでしょうか。

照明探偵団サロンの様子
照明探偵団サロンの様子

(三宅) それと、「照明探偵団」という活動も行っています。これは、「みんなであかり文化について考えよう」という感じの、一般の人を巻き込んだ会です。照明について考えるサロンを開いたり、国内外の都市の照明環境調査に行ったり、大勢で夜の街を観察したりしています。プロジェクトで風景を作っていくことと、広くあかり文化を育てる、ということが両方できる事務所はあまりなくて、そこが特にいいなと思って就職しました。昨年担当したサロンでは、「白熱電球を電球型蛍光灯に変えても、今よりさらに大量の不必要な光を使っていくのでは根本的な解決にはならないのではないか」、というテーマで話をしました。この回はプレスのかたがたにも来ていただき、高効率=省エネという単純な図式ばかりが宣伝される中に一石を投じることができたと思います。技術と意識、両方が大切です。

(三宅) 建築照明の場合は、建築の全体的な計画を見て、建築家の考えに対して照明の観点から大きな方針やテーマ、キーワードなどを提案します。もっと設計図が具体的になってくると、ある照明手法を実現するにはこの器具が必要で、こう設置すると、こう見えるんだ、ということを考えます。実物大で実験することもあります。そういうやり取りが特に面白いです。それと、まだ2年目なので自分が計画の初期から関わっているものは竣工していないんですが、描いた図面と実際にできあがっている建物を対照して見るのも楽しいです。たまに1日20時間近く仕事していることもありますけどね。

今後について

(小寺) 自分自身の進路という意味では、研究者として食べていければありがたいですね。学位が取れたら、留学して海外で研究したいですし、その後自分に能力もあって運もあれば、研究を仕事にしていければ嬉しいとは思っています。もしそうでなくても、仕事というのは誰か自分を必要としていて、対価を払ってくださる方がいて成り立つものなので、どんな形であっても自分がやれること、やりたいことで何らかの需要があることを仕事にしていくんじゃないかと思います。

(小寺) 「0to1」には、これからも緩やかな形で関わっていきたいですね。長い目で見て社会や人にとってサイエンスってどういうことなんだろうっていうのを、サイエンスをやりたい自分たち自身も考えつつ、その魅力自体は専門家でない人たちにも伝えられるようになっていければと思っています。こういうことは本当はサイエンスだけには限らなくて、歴史や経済、文学、スポーツ、芸術など何でも、それぞれやりたい人たちがいてやっていて、それが社会と何らかの関わりがあるというときには、互いが互いを知ろう、あるいは知ってもらおうという姿勢というのは大切だと思っています。それがたまたま私にとってはサイエンスだったということで、逆に個人的には、いろんな人たちが発したいことを受け取れるようなアンテナも広げたいという意識はあります。「東大PIGGYBACKS」のようなグループに参加していることも、自分が魅力的と思うことを大切にしていきたいという側面があるかもしれません。子供にはもちろん手間も時間もお金もかかるんですが、逆にいかに子育てが面白いかっていうことはあまり知られていないですよね。研究しながらの子育てや働きながらの子育てというのは、少なくとも現在の社会ではハードルが高いかもしれないんですが、それ以上に子供は可愛いですし、私にとっては子供を通して社会が広がっていくことも魅力的ですね。私は実は結婚や出産はしなくとも全然かまわないと思っていますし、個々人の選択が尊重されることが大切です。ただその選択の材料となるかもしれない情報として、やってみるととっても素敵だということは、何らかの形で発信していけたらと個人的には思っています。

(小寺) 周囲の方々も温かく見守ってくださっているので、本当に感謝しています。先生方も最初は「この学生、子供産まれるみたいだけどどうするんだろう」と心配されていたのではないかと思いますが、私は最初から「進学します、研究します」と言って続けてきたので、何年か経つうちに「やるって言ってたし、なんとかやっていっているのかな」と思っていただけるようになって、そうするとお互い安心できますよね。子供を持って何かをやっていきたいと思っている人は、ちゃんと「やりたい」って表明することも大切なんだと思います。あとはきちんと考えて工夫して、周りに感謝しながらこつこつ続けていくことでしょうか。

(三宅) 僕は、自分が図面やCGを描いたりしたものが竣工するのを楽しみにしながらやっていくんじゃないかなぁ。その先は、独立するかもしれないし、しないかもしれないし。照明は今まさにLEDやELなんかの先端技術が進んでいく真っ最中で、大きな様変わりをする予感に満ちています。技術や器具への興味も尽きませんが、いずれにしても結果としてモノができあがる仕事をずっとやっていくだろうと思っています。

お互いのいいところ

小寺千絵さん(左)と三宅博行さん(右)

(三宅) (家で)出したものが元の場所に戻らない……。

(小寺) それは悪いところでしょ!(笑) 三宅は、話してて面白いし、私とは全然タイプが違うから、こちらができないことがいろいろできますね。

(三宅) それって、人を使ってるだけだよね。

(小寺) えっ!? すごく……助かってます(笑)。でも君の書いた文章も私がだいぶ直したりしたよ。

(三宅) それはでも、ダブルチェックじゃん(笑)。

(小寺) まぁ、適当なところがいいところなんじゃないかなぁと。

(三宅) それはお互いさまじゃない?

(小寺) たぶん「これしか正しくない」とか、「これが常識でしょ?」とか、そういう人とは一緒に暮らしていけないと思うんだけど、そうじゃないのはいいなぁと。

(三宅) とりあえず一緒にいるときに、いろいろ難しいことでも実行可能な気になるところがいいところかなぁ。「まぁできるんじゃない」みたいな(笑)。

(小寺) すみません、適当な感じで。

プロフィール

小寺 千絵 (こでら・ちえ)

理学系研究科生物科学専攻博士課程。日本学術振興会特別研究員(DC1)。2008年度0to1代表。1981年生まれ。

三宅 博行 (みやけ・ひろゆき)

LPA(ライティング プランナーズ アソシエーツ)、プランナー。理学部生物化学科卒。工学系研究科建築学専攻修士課程修了。1982年生まれ。

関連URL

東京大学大学院理学系研究科有志グループ0to1
http://sc.adm.s.u-tokyo.ac.jp/0to1/

大学院生出張授業支援プロジェクト”BAP”
http://sc.adm.s.u-tokyo.ac.jp/bap/

東大PIGGYBACKS
http://piggybacks.web.fc2.com/

Lighting Planners Associates
http://www.lighting.co.jp/

照明探偵団
http://www.shomei-tanteidan.org/