鈴谷賢史さん

2008年4月11日に行われた東京大学入学式では、近年では行われていなかった入学生総代による宣誓がありました。入学生総代に選ばれた鈴谷賢史(すずや・けんじ)さんに今回はお話を伺ってみました。

最初の夢

鈴谷さん

中学生の頃は筑波大に行きたいと思ってたんです。というのも図書館司書になりたかったんです。私が中1の時ぐらいに筑波大と図書館情報大学が合併して筑波大図書館情報学部というのができて、筑波大にいけば図書館司書になれるし勉強ができるな、と考えました。あと、私は中学から鹿島神流という古武術をやっていて、その最大の支部が筑波大にあるので両方できて最高じゃないか、と思ったんですね。

中学にあがった時最初は小学校から続けていた野球をやろうと思ったんですけど、部活動一覧表を見て、当時から歴史物に関心があった私は古武術研究同好会という名前に興味を引かれて見に行きました。そこで先輩方が木刀を振っているのを見て、体験して、入部しました。これが、古武術を始めたきっかけです。図書館司書になりたかった理由はただ単に静かな場所でしかも本があるってだけですね(笑)。本屋は経営が大変そうなので。

東大に入ろうと思ったきっかけ

中学の頃から政治に関するニュースをテレビや新聞で見て漠然と「誰か世の中をよくしてくれないかなぁ」と考えていたところ、高1の10月末のある日、「誰も変えてくれないなら自分でやるしかない」と思い立ちました。自分がやる、ということは自分が政治家になるしかない。でも一人では大きなことができる訳ではなくて、各分野の最先端を行く人や政治の世界にいく人がいっぱいいるところにいって、人と人とのつながりを作っていくのがいいんじゃないか。で、自分自身も高めなければならない。そういうことを考えたのがきっかけで、東大に行くしかないと思いました。もう一つは、やっていた古武術の支部が東大にもあって、じゃあ東大いってもできるんだなぁって。そういう二つの理由から東大を目指しました。

最初は目標が筑波から東大になっただけで実態は何も変わってなかったんです。中学から高校まで生徒会をやっていて忙しい日々を送っていたので、普通に考えたら自分がトップ合格はありえないだろ、って感じでしたね。

宣誓について

鈴谷さん

まず入試があって、合格発表があって、わーいって胴上げされて、4月まで何事もなく過ごしていたんですが、東大の入学式はどうなんだろうと思ってインターネットで調べてみたところ、卒業式には答辞があるんですけど入学式は宣誓がなかったのです。そこでまず、「あ、デスノート嘘だったんだな」って思いました(笑)。(編注:漫画『DEATH NOTE』では、主人公の夜神月(やがみ・ライト)が日本最高学府の「東応大学」に主席で合格し、入学式で宣誓をする場面が描かれている。)

そして4月に諸手続きに行ったら私の書類に付箋がはってあって「あぁ鈴谷さんですね。ちょっと待ってて下さい」って言われました。しばらくその場で待っていたので、後ろから諸手続きの列が進み、周りからは「合格通知書忘れてきたのかなぁ」とか「受験票忘れてきちゃったのかなぁ」とかそういう可哀想な目で見られているんじゃないかと思いました。しばらくして係りの人が来て、フランス語選択って希望したはずなのにドイツ語選択になってたとか色々考えながら別室に行くと、突然「今年の入学式の宣誓の候補者の一人に選ばれました」という話をされました。「でも去年までなかったですよね?」と驚いて聞いてみると「でもなんか今年からやるみたいです」とやる方もよく分かっていない状況でした(笑)。それが4月3日のことでした。

「6日の午後までに書いてください」と言われ了承したものの、いざ家に帰って文章を書き始めてみると、箇条書き程度しかできない。その後2日間のオリ合宿(編注:オリエンテーション合宿。新入生が入学早々、2年生の引率によって合宿に行き、親睦を深めるというもの。)でクラスのみんなと仲良くなりながらも、帰ってくるバスの中で考えて、家に着いてからガガガってやっても、できない……。文章の形にはなったが文章として気持ち悪い、見栄えがしない……。という感じで結局6日の昼までかかってこれなら何とかいいだろうってやつを提出した訳です。

そして8日のお昼頃教務課から電話で呼び出されて行ってみると「じゃあ鈴谷さんこれお願いしますね。読んでください」ってホントに軽く言われて。「あ、補欠とかじゃなくてホントに私が読むんですね?」って確認しちゃいました。しかも「本番の時は何を見て読むんですか?」と聞いたら「いえ、別にこの A4の紙でいいですよ」って。流石に武道館で八千人とかいる状況で全部覚えていけるか不安だったんで、一応当日は紙を持っていきました。

高校で生徒会長をやっていたこともあって本番ではあまり緊張しませんでした。結果として「あいつ本当に1年生か?」と言われるくらい大成功させることができたらしいので嬉しいです。

東大に入る前のイメージ、入った後のイメージ

東大に入る前は東大の外から見る、っていう一般的なイメージですよね。なんかすごく頭のいい人が集まって日々ハイレベルなことをやっているんじゃないかっていう、いわゆる東大生超人説ですね。でも実際中に入ってみれば実態は普通の大学と変わりないなぁ、と思いました。授業は出る人がどんどん減っていきますし、出ても寝てる人はいますし、授業よりサークルやバイトに打ち込む人もいますし、それを考えたら東大生だからっていうイメージは虚像で実際は他の人と大差がないですね。自分も含めて、ですが。ただ一つ東大に入って思うのは、いい意味でも悪い意味でもみんながみんな普通の人じゃないなって。何かしら一つの面に精通している部分を全ての人に見かけますね。それが何か変な解釈をされているんだなって思います。まぁ自分もそうなんですけど。

入っているサークル

鈴谷さん

私は行政機構研究会(以下行機)に入っています。たいていの人は週1なんですけど何故か週3日出てます。それと古武術を東大でもやっていて、そちらは土曜日1回です。でもちょっと忙しくて出られてないっていう(笑)。

自分は政治に関して意欲を持って東大にきた訳ですが、行機に入って感じたのは、すごく私含め熱い人が多い。何か意見を言えば別の観点からの意見や反対意見がきて、自分の視点から見えなかったものがよく見えるようになりました。かといってみんな思想が違うのかと言えば、世の中をよくしたいという共通の目標が全員にあるのでその点で意見の一致が図られる。同志というか仲間を沢山見つけられたというのがうれしいですね。

自分の夢

私が政治に関心を持ったのは、今の若者の政治的関心が低いことに危機感を覚えたからです。選挙をやれば投票率が80%を超えるなんてまずあり得なくて、地方選挙だと30%くらいなんてことが容易にある。現在議会制民主主義、間接民主政をとっていて、主権者である国民が選挙を通じて意思を表明したり政治に参加したりする政治体制を考えると、多くても8割、ヤバい時には3割4割の人しか参加せずに全体に対する政治が決まってしまうというのは間接民主制としていけないんじゃないか、という危機感を感じました。国民主権は全員の政治参加を前提として成り立っている制度なのにその権利を放棄している、そういうのがよくないんじゃないか。しかも若者の政治的関心が低いということが一般的に言われている。でもこれからの時代を担っていくのは我々若い人です。これからの時代を担っていく人こそが関心を持っていくべきではないのかな、と思います。

今官僚を考えてみると、官僚は叩かれています。必要で頑張っているのに報われない。しかも官僚は自分のやりたいことをやるわけではない。財務省に入ったからって予算の編成をやる訳じゃない。予算の編成やる人もいるし国税庁いって徴税関係をやる人もいるし、秘書課に入れば人事採用とかある。細かく言えばもっともっとあります。官僚だと制度の中でやっていくので結局政治的関心に結びつかない。官僚になってしまえば自分のやりたいことはできない。法曹はどうだと考えた時、裁判所の中で民事でも刑事でも法的訴訟を扱うとすると政治には遠くなってしまいます。だから、法学部にいながら国家公務員はやらない、法曹もやらないという変な人ができあっがっちゃったんですよね。確かに大学入ってフィールドワーク行って強ち自分の考えた通りではないというのは感じたんですが、それでも両方違う。NGOなど上からというよりは下からというものを考え中です……。まだやりたい職業が具体的には見つかっても見つけてもいません。

東大を目指す人へのメッセージ

鈴谷さん

高校時代は1回しかない。いや、大学時代も1回しかないけど人によっては2回3回できる。そう考えたら高校時代を勉強だけしてすごすのは逆にもったいないんじゃないかな。だから私みたいに生徒会もやり、部活もやり、まぁ本当に忙しかったんですけど、やりたいことがあるなら何でもかんでもやってほしいっていうのが一つありますね。まぁ勉強が多少疎かになってしまうというのは必然ですけど、それでも、勉強では得られない何かが必ずあると思います。大人になると高校時代に勉強以外にもこれやってたあれやってたっていうのが今思い返すと役に立ったなぁとなると思います。取りあえず自分のやりたいことを、部活でも何でも是非思う存分やってほしい。まぁそれを適当にだらだらとやっていたら時間ももったいないし意味はないんですけど、自分の嫌いなことでも好きなことでも何でもやってほしい。

勉強でも専門分野のことよりむしろ教養でやったことの方が後々大事になってきた、というのはどの方面に行っても聞きます。法学部にいきたいから法律ばっかり勉強しようとか、理系だから数学、物理、科学ばっかりとかじゃなくて、文系なら私みたいにセンター試験で理科を3科目受けてみたり、理系なら世界史や日本史をかじってみたり、そういう専門に偏らないことを是非ともやってみてほしいなぁと思います。これが結局入学式の宣誓にもつながってくる訳です。「私たちはこの教養課程を通じて、特定の思想や観点にとらわれない柔軟な思考力を身につけるとともに、多角的な視点から物事を観察してその本質を鋭く認識する目を養い、社会に大いに貢献できる立派な人間になりたいと思っています。」と言っていたことがなんだかんだで私の中でも真実です。

プロフィール

鈴谷 賢史(すずや・けんじ)

1989年、埼玉県生まれ。栃木県足利市で小学校卒業ごろまで過ごし、小学6年の末からは埼玉県羽生市に引っ越し、栃木県の佐野日本大学中学校・高校に通う。現在は文科一類1年に所属。政治・古武術の他には、歴史・心理学に興味があるほか、まれにギターを弾きその他様々な分野、特に芸術方面に関しては目下勉強中。


入学式総代宣誓

春の穏やかな日差しの中、桜の花びらが美しく風に舞う今日の佳き日に、平成20年度東京大学入学式に出席できることを、私たちはこの上なく嬉しく思っています。
 私たちは、大学受験という長く苦しい戦いを越えてこの東京大学に入学し、学んでいく権利を得ることが出来ました。私たちはこれから2年間の教養課程で、のちの専門課程に進むための基礎を磨くとともに、将来の専門や、既存の学問領域にとらわれずに幅広い分野の学問を学ぶことが出来ます。私たちはこの教養課程を通じて、特定の思想や観点にとらわれない柔軟な思考力を身につけるとともに、多角的な視点から物事を観察してその本質を鋭く認識する目を養い、社会に大いに貢献できる立派な人間になりたいと思っています。これを達成し、さらに個人個人の目標と夢を実現するために、私たちは日々の努力を怠らず、自ら何事に対しても積極的に行動していきたいと思っています。
 さらに、最高学府である東京大学の学生であるという自覚と誇りを持ち、その名に恥じないような振る舞いを心がけていくのはもちろんのことですが、一方で何事に対しても謙虚な気持ちで接することを忘れないように生活していきたいと思っています。
 私たち新入生はまだまだ未熟な点ばかりですが、小宮山総長を初めとする多数の先生方には、多大なるご指導を賜りたいと思っております。よろしくお願い致します。また、こうしてこれからの新生活とその先の将来に大きな希望と期待を見いだしている私たちを支えて下さる保護者の皆様に、この場をお借りして感謝の言葉を申し上げたいと思います。ありがとうございます。
 喜びと期待に満ちあふれた大学生活を、私たちの手でより豊かにしていくことをここに誓って、新入生の挨拶とさせて頂きます。

平成20年4月11日
文科一類 鈴谷賢史