五神真さん

1.学生時代 | 2.教員から東大総長へ


五神真さん

2015年度より東京大学総長に就任された五神真さん。「知のプロフェッショナル」育成を掲げ、特に東大の教育水準の向上に努めています。今回のインタビューでは、五神さん自身のこれまでの人生と、これからの総長としての展望を伺いました。また、五神さんは総長であると同時に一人の研究者でもあります。五神さんの研究に対する熱い思いも、併せて感じ取ってください。


学生時代

―どんな学生時代を送りましたか。

私は理科一類に入学したのですが、正直に言うと駒場ではものすごく勉強したと思いますね(笑)。その頃は語学の授業が結構ハードで、フランス語が2ヶ月くらいで文法が全て終わってしまうくらいの速さで、それに加えて毎回200個くらいの単語を調べないといけなくて……。あとは数学や物理の勉強に励んでいたことが思い出されます。クラス(註:東大の前期課程では科類や初修外国語別にクラス分けされる。)の仲間たちと勉強できて楽しかったですよ。また、クラシックギターのサークルに所属したことで、ギターの練習はそれほど熱心にやりませんでしたが、人付き合いが広がりサークルの仲間と旅行をしたり楽しく過ごしました。その時の友人たちとは今でも交流が続いています。各方面で活躍している人が多くて、人生に彩りを与えてくれています。

そして僕らの頃も進学振分けがあったので、1年生の時に様々な分野の勉強をしようと心がけました。普通の授業もありましたけれど、例えば建築学に興味があったので建築の先生のゼミをとっていました。特に印象的だったのは、京都駅などを設計した原広司さんのゼミで、そこでは現代建築の話を毎週していました。

ですけれど進学振分けでは建築学科には行かずに、物理学科に進学しました。物理学科に進学しようと最初から決めていたわけではないのですが、何を勉強しようか迷っている中で、1年生の時に履修した統計物理学のゼミがあって、そこで数学的定式化によってミクロとマクロがつながる面白さを知ったのは、そのきっかけになりました。そして、物質科学みたいなことを数学できちんと説明できる物性物理学という分野が非常に面白かったことと、純粋理学だけではなくてやはり世の中の役に立つような接点のある学問が良いかなと思っていたことから、物理の中では物質科学の数理的な面白さと社会とのつながりとに興味を持つようになりました。ただ、大学院で何をするかは物理学科で勉強してから考えようと思っていました。

物理学科に進学してからは、五月祭の時に出し物として行った実験のことが一番の思い出です。

3年生の時は、サイクロトロンという加速器を最初に作ったとする1934年に出版された論文をもとに、その復刻版を作るというプロジェクトに参加しました。一学年上の先輩が始めたもので、私たちは2年目でした。同級生とみんなで分担して装置を組み立てて実験しました。完全に自作だったんですよ。でも、私たちの代では成功しなくて、次の年に私たちのひとつ下の代が成功させたというのを聞いて大騒ぎしたのを覚えています。

4年生の時は、今度は友人と一緒にレーザーを作るということを思いついて、4,5人で始めました。それも完全に自作でしたが、設計に甘いところがいくつかあって、最終的にうまくいきませんでした。けれども、その実験をしている時にレーザーが結構面白いなと思ったので、大学院では光と物質の研究を始めました。

そして博士課程の途中で理学部物理教室の助手になり、5年間務めた後で物理工学科に講師として移りました。そこですぐに研究室を持つことができて、工学部に22年間在籍しました。理学部に戻ってきたのが2010年で、今でも研究室のメンバーとして研究を続けています。

―具体的にどういう研究を行っていますか。

最初は光と物質の相互作用に興味がありました。例えば「なんでガラスは透明なのか」とか。その後で半導体などの物質に光を当てた時に物質の中に出てくる、超伝導や超流動に類するような量子現象(註:超伝導とは、特定の金属や化合物が極低温では電気抵抗がゼロになる現象。超流動とは、極低温の液体ヘリウムが粘性を失って微小な隙間に浸透する現象。)に興味を持ちました。それは修士課程から博士課程くらいの時だったと思いますが、それから今までずっとこれらのことをテーマに研究を続けています。

五神真さん

最近やっと狙ったところまで到達したというところです。光を当てると、電子とその抜け穴である正孔と呼ばれるそれぞれマイナスとプラスの電荷を持ったものが出てきて、それらがちょうど水素原子みたいな一つの粒子を作るんです。その粒子が低温の超流動のような状態になるという現象があって、それはもう50年くらい前に予言されていたのですが、誰も実験ではちゃんと確認できていなかったのです。それをずっと追いかけていたのですけれど、ようやく実験が成功し始めたところです。もし総長になっていなかったら今はきっとその研究に没頭していたと思いますね。

―研究者になろうと思ったきっかけは何でしたか。

修士1年の秋に、霜田光一先生が大学院の講義の中で原子とレーザー光の相互作用に関する比較的新しい実験の話をしてくださったことがありました。それを聞いているうちに、その実験とは違う場面(註:固体に光を当てる実験)なのですが、普段自分が研究しようと思っていた半導体の中で非常に似た現象が起こるのではないかと考えたのです。半導体でその実験をやった人はいなくて、非常に新しいテーマだったのですが、それをたまたま自分で思いついて実験してみたら非常にうまくいきました。それでいきなり英語の論文を書くことができて、その後も比較的面白い展開をして、そのまま博士論文まで書けちゃったんですね。この経験を通して、「分かる」や「世界で初めてこれを知る」というのはどんなものなのか感触を得ることができて、研究って面白いかもしれないと思うようになりました。


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