南風原朝和さん

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2008年に創立60周年を迎えた東京大学教育学部附属中等教育学校(通称「東大附属」)。今年度からその東大附属の校長に就任された南風原朝和(はえばらともかず)先生に、東大附属の教育や今後の抱負についてうかがいました。

東大附属の教育の特色

南風原朝和さん

一言で言えば、「確かな学力とたくましさ」ということになると思います。おそらく「たくましさ」というのは公式には出していないと思うけれど、私はそうだと思いますね。先日、本校の創立60周年に合わせて本を出版したのですが、その中で生徒にいろいろアンケート調査をして、本校の特色はどういったものか聞いてみたんですね。その中では「6年制なのでじっくり、ゆっくり学べる」「部活や趣味に専念する事ができる」「生徒会活動などを通じて幅広い活動を経験できる」「6年制なので学年間の交流がかなり自由にできる」などといった特色が挙げられていました。

そのアンケートに出てきたような特色を実現させているカリキュラムは、6年間の一貫教育が基礎になっていると思います。もともと2000年に中等教育学校になる以前から、本校は「東京大学教育学部附属中学校・高等学校」という中高一貫校だったので、一応中学校の卒業証書をもらって、高校に入学する、といった感じでした。今はもう6年間ずっと同じ「中等教育学校」だから途中に卒業っていう概念がない、つまり中学校の卒業証書はないし修学旅行もないんですね。

その中高一貫校だった当時から、東大附属では「2-2-2制」といって、中学校と高等学校、あるいは中等教育学校の6年間を「3年-3年」ではなく「2年-2年-2年」で分けて考えるシステムを導入しています。つまり、最初は「基礎期」、次は「充実期」、最後に「発展期」という段階に分かれていて、それぞれの2年間はクラス替えをせず、担任も一緒になっています。そして、それぞれの期に適した学習というのが組み込まれていますから、2年間同じ環境でじっくりと物事に取り組める、という訳なんですね。

東大附属の総合学習

東大附属の教育の中で双生児研究と並んで最も有名なのは「総合学習」だと思います。皆さんが中高生の時にも教科の一つとして「総合的な学習」というものがあったと思うんですけど、本校は非常にそこに力を入れているんですね。具体的には、1・2年生は「総合学習入門」、3・4年生は「課題別学習」、 5・6年生は「卒業研究」という大きなテーマを設定して、系統的に総合学習が行われています。

例えば1年生は何をやるのかというと、まず「東大探検」が行われます。4人のグループになってテーマを決めて、東大を対象としたフィールドワークをやるんですね。それで本郷キャンパスに1年生全員が行って、あらかじめ決めたテーマで歩き回って調べて、調べたものは必ずプレゼンテーションをします。だから1年生、一般にいう中1から既に「テーマを決めて、調べて、プレゼンテーションする」という本格的なフィールドワークの流れがしっかりできているんです。また、その他に「国際理解」「サバイバル」「情報とメディア」という3つのテーマが設定されていて、1年生の3クラスが3つのテーマを順繰りにやっていくようになっています。「国際理解」というテーマでは、東大の留学生が講師になって、自分の国の文化について紹介したり、その留学生の国と日本との関係について調べたり学んだりしていく、というものです。そして「サバイバル」では災害や、そこからの生存について学ぶ。また、「情報とメディア」では、今話題になっているネットの問題であるとか、著作権の問題であるとか、そういった事について学び調べる、ということです。

それから、2年生になると「半径2km研究」といって、東大附属から半径2kmの中でフィールドワークを行います。「東大探検」と同様にテーマをグループで決めて、調査をして発表するという流れになっています。それと1年生の時は「学ぶ」ことに重点を置いていましたが、2年生は「集団で表現する」ことに焦点を当てていて、「演劇」「新体操」「太鼓」という違ったタイプの活動を行っています。もちろんただやるだけではなくて、演劇だったら大道具から音響や照明効果まで全て学んでやっていくし、太鼓もプロの方を呼んでかなり本格的にやります。こういうのはなかなか他の学校ではないと思いますね。普通の学校でいったら中2ですからね。

3・4年生になると「課題別学習」という1年間単位の総合学習を行います。15個ぐらいのテーマが用意されていて、それを3年生の間通してやって、4年生になったら同じテーマ群から別のテーマを選ぶ、といった感じですね。そこでは3・4年生が学年の枠を超えて一緒に活動するというのが大きな特徴です。具体的には、例えば「農業に学ぶ」といって、週1回、田無にある東大農場に行って実際に農業を学ぶコース。それから「心とからだ」、これはこの名前からだと若干分かりにくいのですが、沖縄を取り上げて、歴史など様々な問題を学ぶことを通して自分の心と身体について考える、というような内容です。このテーマでは、半年間学んだ後に実際に沖縄に行って、現地の人たちと交流する、というような流れになっていて、その中でまた沖縄の踊りを学んだり、音楽を学んだり、何らかのプレゼンテーションをしたりと本当に総合的な活動をしています。いま挙げたようなテーマ以外にも例えば「英語でミュージカルをつくる」といったような課題別学習もあり、あと「日本の伝統芸能を学ぶ」という講座だと実際に青森のねぶた祭りに参加するというようなことがあるんですよ。

最後に、5・6年生になると、「卒業研究」が行われます。高校で卒業研究っていうのもなかなか無いと思うんですけれども、4年生の最後にオリエンテーションがあって、6年生の中盤まで通して行われます。研究に当たっては、生徒120人に対して先生方40人全員で指導を担当します。だから大体生徒3 人につき先生1人で、その中の3人が全然別のことをやる。個人の調査研究をやる、あるいは論文や作品をつくる、ということをやるんですね。これは東大附属の伝統ともいえるもので、様々な賞をもらったり、大学の推薦入試でも評価されたりしています。

以上のような流れが6年間を通しての総合学習です。このようなことがこの学校の特徴なんだけれど、ここで私が強調したいのは、やはりそれができるためにはそれが指導できる先生がいなくちゃいけないということで、力のある先生をそろえている、ということです。それ以外にも、5月の体育祭や9月の文化祭などの学校行事は、本当に生徒が主導して主体的にやっていくんですね。6年間の一貫教育なので、そこで異学年の交流が生まれて、先輩から後輩に、次々とスキルや考え方などが受け継がれていくのが見えるんですね。まさに中等教育学校ならでは、という感じがします。

東大附属の入学試験

南風原朝和さん

ではそういう優秀な先生方が揃っている中で、子供たちをどうやって入れるかというと、もちろん入学試験をします。ただ、同じいわゆる「国立大学の附属校」でも、例えば筑波大学や東京学芸大学にある「附属中学校・高等学校」のように中学と高校に分かれているところと東大附属のように中等教育学校になっているところでは、入試制度に違いがあります。中等教育学校のうち公立の学校では、いわゆる「学力テスト」で生徒を選抜するようなことはしないというルールを作ったんですね。東大附属は国立ですから厳密にはそのルールに従わなくてもよいのですが、公立の中等教育学校のモデル校ということもあり、原則としてそのルールに従って選抜を行っています。

それでは入学試験で何をするかっていうと、作文や面接、それから適性検査を行います。それと実技、これまでの例だと「お面作り」とか、「放送を聴いて舞台の様子を描く」とか、「折り紙を折って指定された図形を作る」といった課題が出されています。要するに、東大附属では表現したりテーマを持って考えたりといった能力が必要になってくる訳で、そういうのが嫌いな子供だと困る訳です。だから私たちが育てていきたい内容にあった課題を出しているんですね。そうするともう作文がイヤだとか、自分で考えるのがイヤだとか、表現には興味ないなんていう子は来ないですよね。だからまず入学試験で、もう東大附属らしさっていうのが出ていると思います。

そして、卒業したらどうなるかっていうところです。私は教育学部の教員を兼ねているんだけれども、いわゆる試験とかができても、卒論とかとなるとハタと自分のテーマが決められない人とかが出てくるんですよね、東大生でも。まぁ、東大生だから、という部分もあるかもしれないけどね(笑)。だけど本校の生徒っていうのはもう東大附属で卒業研究というものをやっているし、1年生の時から「テーマを決めて、調べて発表する」ということをずっとやってきているので、恐らく大学に行って、プレゼンテーションができないとか、テーマが何も決められないとか、そういうことは非常に少ないと思います。実際、教育学部の苅谷剛彦教授が調査をされた結果によれば、本校の中でそういう「総合学習」、「特別学習」に力を入れてきた生徒たちの多くは、やはり大学でも卒論で十分な内容のものが書けているんですね。その調査は本校と他校を比べた訳ではなくて、校内での相関研究に留まっていますが、本校の中で「総合学習」をやった人ほど大学で伸びているということは、それに力を入れている本校はそれをやっていない他校と比べて、全体として大学での卒業研究などに適しているだろうと推測できますね。

だから例えば全国の大学の学長に「どういう生徒が集まって欲しいですか」と訊いたら、おそらく東大附属が育てているような生徒が欲しいと答えるだろうと思うんですよね。そういう意味では、大学が求めている人材をこちらが育てているという、自負はあるんです。だったらどこの大学でもスイスイ入っているかというと、大学側が欲しい人材に合わせた入学試験をすべきなのに、いわゆる普通の学力試験をしている訳だから(笑)、そこにまぁ、矛盾がある訳ですよね。ですから、いわゆる「超難関大学」に入るという形にはならないけれども、それはそれで、それを目指している訳ではないですからね。大学に入って活躍できる、そして卒業して活躍できるという、それが本当の「確かな学力とたくましさ」だと、最初に言ったのはそういうことですね。

さまざまな「たくましさ」

それと、今まで主に学力の面における「たくましさ」について話しましたが、もう少し直接的な意味での「たくましさ」も本校の教育の特色だと思っています。例えば1年生では、「伝統の遠泳にチャレンジ」ということで、海で全員が遠泳をするんですね。ただ、泳ぎには個人差があるので、みんながここからここまで行かなくてはいけないということではなくて、だいたい1時間程度の大遠泳や15分程度の小遠泳などにコースを分けて、競争ではなくてみんなが泳ぐことを目標にしています。2年生になると、「富士五湖チャレンジウォーク」を行います。毎年少しずつ距離を伸ばしており、今年は85km歩きます。100kmまで伸ばすのが目標です。そして、歩いた後は自分たちで火をおこして夕食を作る。その「火を起こして、飯ごう炊さんをして食事を作る」という作業は事前学習で既に経験している。だからここで火が起こせない、なんてことにはならないんですね。そういったプログラムがあらかじめ組まれているんです。


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