増田建さん

増田建先生

「Komaba-alert」(以下「駒場アラート」)は、大震災などの自然災害発生時や新型インフルエンザなどの流行時に、教養学部から学生のPCや携帯電話のメールアドレスに一斉通報を行い、必要に応じて安否確認を行うシステムです。2010年度から運用が始まったこのシステムは、前期課程の全学生に登録が呼びかけられています。

今回は、2011年3月の東日本大震災発生時に、キャンパスの防災担当として駒場アラートによる学生の安否確認に尽力された増田建先生に、キャンパスの防災や学生の安否確認の必要性についてお話を伺いました。


防災担当としてのお仕事について

増田先生が駒場アラートに関わることになった経緯を教えてください。

学部長室には教養学部の大事なことを決める執行部があって、僕はそこで学部長の補佐として入っていました。当時の学部長の山影進先生(現青山学院大学教授)が防災に非常に興味を持たれていて、「地震は必ず来るから、学生の命を守らなければいけない」とおっしゃっていたんです。それでそのためのシステムを作ろうということになりました。そこで生まれたのが駒場アラートです。

僕の前任の真船文隆先生(東京大学教養学部総合文化研究科教授)が駒場アラートのシステム開発を推進されました。僕はそれを引き継いで、僕が補佐を担当した年度に学生に登録してもらうように働きかける活動をしました。

駒場アラートシステムの運用のポイントを教えてください。

実際に何千・何万の人にメールを一斉に送るのは結構難しい技術なんです。それを可能にしたのが駒場アラートの要の一つです。もう一つ難しいのは、そんなシステムをどうしたら学生さんに使ってもらえるかということです。数千・数万の人に一斉にメールを送る上で、使用されていないアドレスがいくつも含まれていると、サーバーに迷惑メール発信元として認識されて、発信元のメールアドレスがブラックリストに入れられてしまうので、常に学生さんたちに、最新のメールアドレスを登録してもらうための工夫を考えなければいけません。

最初に駒場アラートに登録してくれた学生さんは、全学生の4割から5割くらいでした。震災時の対応に利用することに加え、新型インフルエンザが流行したときや台風のときなどに学生に休校の情報を伝えることを想定していました。また、学生の携帯にメールを送ると、学生はメール中のURLをクリックするだけで安否の応答ができる。そしてそれをこちら側でリスト化できる機能を持っています。

ただ、それだけだったら普段なかなか使わないので、いくつかの機能を持たせようしました。まだ実現出来ていませんが、教務課の方から進振りや試験などの学務情報を送れば、学生はもっと使うんじゃないかなど、いろいろなことをディスカッションしました。現在は一斉通報、安否確認、休講補講情報・教室変更、クラスへのメーリングリストなどの機能を持たせています。前期課程の教務システムであるUTask-Webと統合させることができればいいのですが、システム開発やセキュリティー上難しいところがあり、実現には至っていません。

防災担当として、駒場アラートのシステム開発の他にはどのようなお仕事をされていましたか?

コンピューターパネル

自治体などでも行われていますが、駒場キャンパスでも何かあったときに3日間サバイバルできるように食糧備蓄などをしなければならず、その備蓄計画や古くなったものの更新を事務の人と相談しながら行いました。あとはこの建物(編註:インタビューを行なった16号館)に入ったところにコンピューターパネルがありますが、これはCIDER(総合防災情報研究センター:防災に関する研究を行っている東京大学大学院情報学環の機関)の方が取り組まれた、キャンパスの防災ネットワークを作るプロジェクトの一環です。このコンピューターパネルは、実際に地震速報が流れたときに警報音が鳴り、学生や教職員が見られるように、16号館、18号館、図書館とアドミニ棟の入口に設置してあります。CIDERの先生方と連携して、この設置に携わりました。パネルの存在によって防災意識を高めることも目指しています。その他、この建物の各階に地震計を設置して、揺れたときにどのような強度的な問題があるか等、いろいろなキャンパス防災の取り組みをやりました。

防災担当をされてどう感じましたか?

「防災」と口で言うのは簡単ですが、災害への備えはあって当たり前です。もちろん防災のことは常日頃考えておかなければいけませんが、だからといってそこに投資ばかりするわけにはいきません。そのバランスが難しいと感じました。しかもそのために努力しても我々研究者は何も評価されないという問題もあって難しいところです(笑)。どこまでやってもきりがないし、やらなくても大きく非難をされることはないかもしれない。答えが無いというのはなかなか大変です。常に試行錯誤しているわけですが、周りの人に簡単に納得してもらえないところもあります。

「納得してもらえない」というのはどういうことですか?

事務の人は指揮命令系統があって、「こうしてください」とお願いするとちゃんとそうしてくれるのですが、東大の先生というのは個性的な人が多くて、「そんなの意味が無い」とか、「研究の時間が削られる」とか言われてしまって、簡単に受け入れてもらえるわけではないのですね。意識の高い人は地震のときにコピー機が動いて危ないとか、実験室にいろいろなものが積みあがっていて危ないとか、そういうことを考えているんだけど、そうじゃない人は「近くにあった方が便利じゃないか」と言われたりします。大震災が起きた直後は、これは危ないんじゃないかとか一時的に意識が高まるんだけど、しばらくすると忘れてきて、もう起こらないと思ってしまっているところがありますね。首都直下型の地震が近い将来に発生する予測が出ていますけれども、自分自身にあてはめて考える人はなかなか少ないのが現実です。僕自身も今すごく防災を意識して行動しているかと言われると難しいところではあります。だからみなさんの意識をまとめるというのは難しいことです。

先生の研究分野は防災と関連はありますか?

全く無いです。僕は生物学の教員なので、普段は防災の「ぼ」の字も関係無い(笑)。防災を専門にしているわけではないから、東大の防災の先生に来てもらって講演会やワークショップなど防災意識を高めることもしたのですが、そういうのは継続的にやらないといけないんでしょうね。僕は全くの素人ですけどお役目なら仕方ないから引き受けましたが、最初に防災と聞いたときには「防災かあ」と思いましたね(笑)。

東日本大震災の対応について

東日本大震災が発生したときのことを教えてください。

最初に駒場アラートに登録してくれていた学生さんは4割から5割くらいでした。本当に実際に使うことになるとは想定していませんでした。東日本大震災が起こったときは、僕は駒場キャンパスのアドミニ棟の3階にいて、それから2晩泊り込みました。ちょうどそのときは春休みで、授業は無かったけれども、下宿先を探しに来た新入生やその家族、サークルで来ている人がいました。駒場キャンパスに来ている人は少なかったけれど、逆に春休み中なので学生さんはサークル合宿や運転免許合宿に行っていて、結構日本各地に散らばっていました。その中で、大学として教養学部にいる学生さんたちと教職員全員の安否確認をする必要があるだろうということになりました。

東日本大震災のときは安否確認をしなければいけない教養学部所属の学生・教職員が9000人いました。僕はちょうど学部長室にいたので、学部長と相談して、発災の20分後には安否確認メールを出しました。最初の対応が早かったことによって東北にいた人も登録できたんですね。時間が経つと回線が混雑してパンクしてしまったので、早くて良かった。津波で被災された所に免許合宿に行っていた学生さんたちもおられ、ちょうどその人たちが駒場アラートに登録していて、返信してくれたことから私たちとしては比較的安心できたました。また大学の方針として、全員の安否確認をやろうということになりました。

当時駒場アラートに登録していたのは4000人ほどで、駒場アラートで安否確認ができた人は2時間ほどで頭打ちになりました。次に、登録してあるメールアドレスにメールを一斉送信して、自分が知っている他の人の安否情報も教えてもらうようにしました。これで未確認の学生の数は減ったのですが、まだ2900人残っていました。6日目に被災地域出身の人の確認を優先しようということになり、それまでに確認ができていなかった59人に一人ひとり電話したところ、全員無事であることが確認できました。

増田建先生

この辺でもう打つ手が無くなってくるのですが、彼らは大学との結びつきは弱くてもクラスの結びつきは強いだろうということで、駒場アラートのメーリス機能を使って、クラスメイトの安否を知らせてくれというメールを全クラスに送る作業を手分けして行いました。これでさらに未確認の学生は減ったのですが、まだ残っていて、とうとう打つ手が無くなったかと思われました。その時、教務課の方が「今はUTask-Webの成績確認期間なので、駒場アラートを使わなくても学生さんはこれを使いますよ」と教えてくださって、UTask-Webのログイン情報を調べたところ、ほとんどの人の確認ができました。残り179人であまり学校に来ない学生や大学院生が残りましたが、最終的に5月には全員確認しました。このように何段階にもわたって地道に安否確認を行ったわけです。

震災のときは学生の安否確認が大変だったということですが、大学が安否確認をすることの重要性を改めて教えてください。大学側は必死に安否確認をしようとしているのに、学生はあまり意識していないように感じますが……。

それはそうですね。昔は大学が学生の安否確認に必死になることはなかったと思うのですが、学生たちは大学に授業料を払っているわけだし、大学が学生としての身分も保証しているわけなので、今の大学は学業の保障もするけれど安全の保障もしなければいけないという意識は結構強いですよね。例えば学生が怪我をして、大学当局がそれを知らずに放置していたとなれば大学の責任も問われるので、各部局が全員の安否を把握すべきです。震災のときはすぐに対策本部ができて、各部局に対して全員の安否確認をとれという指令はくるわけです。本郷の研究室のように全員と繋がっていればやりやすいんですけど、駒場だと教員と学生が直接繋がっていないので、独自のシステムが必要になります。

駒場アラートの課題を教えてください。

親には電話するけど大学には連絡しないという問題があります。そこで自分が非常時に安否を知らせたい人をあらかじめ登録しておいて、URLをクリックすれば大学だけでなくその人たちにも安否情報が行くようシステムを工夫すれば、解決できるのではないかと考えています。

安否情報の登録に際して送るメールはシンプルでいいんですが、生きているか死んでいるかしか判らないんです。URLをクリックすれば、その人は生きているということはわかりますが、その人がどういう状況かはわかりません。他大学だと○とか△とか助けが欲しいとか選べるようになっているところもあるのですが、駒場アラートにはその機能が無いので、助けが必要な場合は直接連絡をしてもらうようにして対応しました。

それと、駒場アラートは教養学部オリジナルのシステムで、大学本部から言われたわけではなく教養学部で独自に作ったものです。しかし、本来これは大学全体で考えていかなくてはいけないことです。また、今は学部長室の補佐が管理をしていますが、全く体制が組織化されていません。今回は僕が学部長室にいたからすぐにメールを送って対応できましたが、僕が例えば家具に押しつぶされて、対応できなくなったときに誰が行うのかや、誰がメールを送り、誰が確認作業を行うのかなど、何かが起こったときに担当者がいないと何もできないというのはシステムとして弱いので、組織化が必要です。

東日本大震災のとき、駒場アラートに入っていたのは学生の4割~5割しかいなかったんですが、このシステムがあったおかげで何千人という人が安否確認に答えてくれたので、このシステムは有効であったと評価できると思います。そのあと、登録率100%を目指してやってきているわけです。

東大生へのメッセージをお願いします。

「駒場アラート」で検索すると学生さんたちがtwitterにdiscouraging(がっかりするような)なことを書いているのを見ますが、一人ひとりがきちんと自分の安否を伝えることで大学は緊急時にスムーズな対応ができます。一人ひとりは社会の中の存在であり、全部を一人ですることはできないので、東大生ならそのくらいの自覚はしてほしいですね。皆さんの安全を確保するために防災や災害時の対応を頑張っている教員もいるんだということを理解していただいて、自覚を持って行動していただけたらと思います。

ありがとうございました。

プロフィール

増田建先生

増田 建 (ますだ・たつる)

東京大学教養学部・大学院総合文化研究科附属
教養教育高度化機構 諸年次教育部門
部門長・教授