経済学部長インタビュー(吉川洋教授)

世界同時不況、この中で経済学部は大きく注目を集めていることであろう。その経済学部の研究内容や教育の特色などについて、吉川経済学研究科長にお話を伺った。


経済学部長

―経済学研究科の研究内容とその目的はなんですか。

名前の通りで大きく言えば経済ですね。理系の最先端の研究は言葉自体エキゾティックで、説明してもらわないと分からないということがよくあるけれど、それに対して、経済学が対象とすることは、はっきり言って新聞に毎日書いてあるようなことですね。ただし、新聞に書いてあるからといって、新聞に書いてあることだけで終わりというのではない。起きていることに関する報道、それから世の中の人がああ言うこう言うということの報道を踏まえて、私たちはどういうことが起きているのかをきっちりと理解しなければならない。それは必ずしも簡単なことではない。さらに、理論を前提に経済政策としてどういうことが理論的に導き出されるか、言ってみれば、“正しい”政策なのか、それを研究するというのが経済学の目的だと思いますね。

たとえば、私はマクロ経済学が専門なのですが、マクロ経済学の研究対象というのは、景気・経済成長・インフレ・デフレ・失業率などです。例えば為替レートが日々変動する中で財政政策を、あるいは日本銀行の金融政策はどうすべきかを研究の対象にしています。それから、ミクロ経済学では、ゲーム理論などの分析ツールを用いて、家計・企業の行動を分析します。他に、経済史という分野では、名前の通り、経済の歴史を研究します。経営ですと、例えばものづくりの現場、日本の製造業のあり方を分析する分野があります。また、金融の分野というのは、マクロ経済学のところであげた金融政策のほかに、市場・規制のあり方を考えています。

―学部の目指すものと学生の展望について教えてください。

経済学部長

さきほどお話しした通り、経済というものはエキゾティックでもなんでもない身近なものです。家から一歩外に出て帰ってくるまでに経済活動しないで――ざっくばらんに言えばお金を使わないで帰ってくるなんてことはないんじゃないんですか。もちろん、近所の犬の散歩くらいはあるかもしれないけれど。学生諸君だって、アルバイトすればお金が入っているということで関わっているし、オーケストラや医療、もちろんオリンピックやワールドカップも経済と無縁ではありえない。

もちろん、主役はお金・経済ではない。たとえば、ワールドカップでサッカーをやっているというときに、あれを見ていて一体いくら掛かるんだろうか、あれが生み出す経済効果は……というような話を考えるのは野暮な人でね。誰だってサッカーのことを考えているわけです。医療でいえば、病気や怪我を治すことを考えているわけです。しかし、お金・経済と一切関わっていないものはない。繰り返しになってしまうけれど、すべての人間の活動、文化的な活動を含めて、すべてベースに経済がある。

病気を治したいという思いは大切だけれども、医学の知識を身につけなければ、病気を治せません。それは経済も同じです。経済がぼろぼろになると、言ってみれば社会全体が病気になってしまう。良い社会にしたい、できるだけ健やかに暮らしたいという思いを達成するためには経済を健全なものにしなければならないわけで、そのためには知識・知恵がいるわけですよ。それを提供するのが広い意味での経済学であり、そういう知識を身につけた人がエコノミストだと思いますね。

100年以上前のイギリスの大経済学者マーシャルが良きエコノミストになるための要件として挙げた言葉に”Warm Heart and Cool Head.”という言葉があるのですが、”Warm Heart”だけではうまくいかない。大学では”Cool Head”の部分を教育して、”Warm Heart”と”Cool Head”を兼ね備えた良きエコノミストを作りたい。これが経済学部の目標ですね。

―それでは教育の特色について教えてください。
―まずは学部についてお願いします。

学部では経済学科・経営学科・金融学科の3学科を置いています。学科ごとに選択必修が少しずつ違いますが、それぞれの間の壁は比較的緩やかだと思います。どの学科に属していても、この講義は何学科の人だけしか受けられないということはなく、他の学科の講義を自由に取ることができます。

それから、特色といえば、全員取っているというわけではないですけれども、ゼミがひとつの特徴だろうと思います。理系の学部では研究室という言い方をして、何々教授の研究室で卒論を書いたといった感じになっているかと思いますが、経済学部の場合、学部の演習――ゼミというものが理系の研究室に当たります。少人数のフェイス・トゥ・フェイスの学生と先生との交流ができる教育システムとして、伝統的に学部のゼミが非常に重要視されています。

―大学院の方はどうでしょうか。

経済学部長

大学院のほうは修士課程2年と博士課程3年とあります。専攻でいうと、経済理論専攻・現代経済専攻・経営専攻・経済史専攻・金融システム専攻という形で分かれています。その分、学部より専門性が増しています。博士課程までいくと、経済学研究科では学者の道を進む人が多いですけれども、修士課程は修了すると、博士課程に進学して目指す人もいますが、社会に出て行く人もいます。

学部と大学院の接点ということで、いくつかの大学院の講義は学部生も取れるようになっています。

それから、University of Tokyo International Programming of Economicsというプログラムを今年(2010年)の10月から始めました。私たちはUTIPE(ユータイプ)と呼んでいるのですが、これは、留学生を対象に大学院の講義を全部英語でやるコースです。東大の留学生は、今までは基本的に日本語を理解できるというのが要件だったのですが、「日本語は知らなくて構わないですよ。講義はグローバル・ランゲージの英語でやりますから。」ということで、この10月から始まりました。

少し話が逸れますが、英語がグローバル・ランゲージということは、ブロークン・イングリッシュ(註:英語を母語としない英語話者が用いる、文法・発音を間違えた英語)を恥じることは何にもないということでもあります。今やアングロサクソン系が喋っている英語だけが英語じゃない。インド人はインド人の英語を、韓国人は韓国人の英語を話しているわけで、日本人も日本人の英語を喋れば良い。「ありがとう」と言ったって、感謝の気持ちは伝わらないけれど、”th”の発音が悪くたって、「サンキュー」と言えば、ちょっと変でも相手に伝わるわけです。

―産学連携・社会との繋がりについて教えてください。

経営教育研究センターでは藤本隆宏教授を中心として、外部資金による時限プログラムとエグゼクティブ教育プログラムを開設しています。たとえば、「ものづくりインストラクタースクール」では、製造の現場経験者や技術者に「教えるプロ」としての手法を学んでもらう高度職業人教育プログラムを提供しています。

また、わたしたちは寄付講座を頂いています。外部から来ていただいて、金融工学の基礎を実務家の立場の方から、現場の臨場感ある形で学生の講義をして頂いています。大学院レベルですと、モルガン・ギャランティーからインターンシップの機会を提供していただいています。私は現場に行ったことはないのですが、金融工学を駆使するトレーダーの世界が繰り広げられているのでしょう。そういう現場を見て、体験してきてもらいたい。関心のある学生で希望があれば、仕事を体験してもらうプログラムも用意しています。

それと同時に、いろいろな講演会を行なって、社会に情報発信しています。

―今の学生に求めることは何でしょうか。

経済学部長

さきほどもお話しした通り、”Warm Heart and Cool Head.”を身につけてほしいですね。”Cool Head”は経済学部で提供しますが、”Warm Heart”の方は大学の講義で教わるというものでは必ずしもない。大学では良い友達、すぐれた友達に会えると思います。大学4年間の貴重な時間の中で、友達と語る、旅行する、サークルをやる、スポーツをやる、そういったいろいろな体験を通じて、”Warm Heart”を持ってほしいですね。その上で、経済学の勉強もしっかりやって”Cool Head”を持ってもらうということじゃないかな。決して、科目で全部優をそろえるということじゃないですよ(笑)。


「経済というものはエキゾティックでもなんでもない身近なもの」という言葉が印象的であった。日本のすべての活動のベースになっている経済をどうすべきか、経済学部生に考えてもらいたい。

経済学部ホームページ: http://www.e.u-tokyo.ac.jp/


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