教育学部長インタビュー(金子元久教授)

※現在、新たな学部長が就任されています。

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今回の学部紹介では、教育学部長・金子元久氏にお話を伺った。教育学部は1949年に新制東京大学の発足に際して設置され、それ以来教育学の研究を進めている。また、擁する学生の数は1学年100名弱で、少人数制の講義・演習が開講されている。


―教育学部ではどのようなことを研究しているのですか?

金子教育学部長

自明ですが、教育学部は、基本的には教育に関する研究をやっています。ただ、教育に関する研究といっても非常に幅が広く、教育学部の研究は総合科学の要素を持っています。この総合科学を大きく分けると3つの分野があります。1つ目は人文科学的なアプローチで、教育に関する哲学、あるいは歴史や、基本的な考え方、「教育とは何だ?」といった問題を研究する分野です。2つ目は社会科学的なアプローチで、教育の社会学や、教育行政・政策、あるいは学校をどうやって運営するかという問題を扱います。その他に社会教育や、それに関わる図書館学など、教育と社会との関わりを追究しています。3つ目は自然科学的なアプローチで、例えば教育心理学においては統計や実験などの手法を使います。単に数量的な統計だけではなくて、今は臨床心理学といったように非常に質的な方法を用いる所もあります。それに加えて、身体がどのように機能しているのか、成長がどのように起こっていくのか、そこでどういった問題が起こってくるのかというのを研究する体育・身体教育も自然科学的なアプローチに入ります。これら3つのアプローチを使い、教育を中心として研究しているというのが教育学部です。

―研究の目的は何ですか?

教育というものが何であるか、今どういう問題があるかということを明らかにして、そして良い教育を作るというのが、教育学部全体の研究・教育の目的です。

―学部全体としては何を目指しているのですか?

教育に関して、高い水準の教育と研究をすることだと思います。最近の動きとしては、研究面ではCOE(編注:「21世紀COEプログラム」。文部科学省が大学の構造改革を目的として進めている事業。)の一環として、基礎学力の研究センターを作りました。これは全国で東大だけにある教育に関するCOEで、いわゆる学力問題について高度の研究をすることが一つの最近の重要な課題です。また、もう一つの動きとして、教育に関わる職業人の養成のために2つのコースを設けました。1つは大学経営・政策コースといって、大学の経営に関わるプロフェッショナルな人や、あるいは高等教育担当の行政官を養成する大学院のコースです。もう1つは学校教育高度科専攻といって、これも大学院の専攻ですが、大学院レベルの学位を持って先生になる人や学校の経営をする人など、実践的な職業人を作るというのが一つの課題になっています。それから、学士課程の教育というのも我々にとっては非常に重要な課題です。学士課程は必ずしも先生になる希望を持っている人ばかりではありませんが、教育を通じて自分の可能性を考えるには非常に良い学部だと思います。

―学生に対しての教育の特色を教えて下さい。

金子教育学部長

大学の教育には、大学院レベルと学部レベルの2つのレベルがあります。学部レベルについては、教育を中心として色々な教育をしているわけですが、実際には教育学部の卒業生でそのまま学校の先生になる人は少ないんですね。卒業生の就職先で比較的多いのが、マスコミ関係や広告関係で、それ以外の企業に行く人も多いです。ただ、それは教育に全く関係ないというわけではありません。教育学部の特色は教育に関して人文科学・社会科学・自然科学の面から総合的なアプローチをすることです。その中で教育というものを見て、考えてもらうことによって、社会に行ったときに、「自分が何をしたいのか」「自分にとってどういうことが重要であるのか」「人間というのはどこが面白いのか」といった事について、一定の見方を持ってもらう。学部としてはそういった教育をするのが重要だと思います。

大学院の第一の目的はこういったそれぞれの分野で専門の研究をしてもらうことです。COEもそういった意味で大学院教育の高度化を進める一つの手段だと思います。大学院でもう一つ重要なのは、先ほども言いましたが、教育に関わる専門職の人達の養成です。同時に、日本で初めての事ですが、学校教育高度科専攻では、東大の理学系や人文系などの大学院と組んで、その分野で教員免許を取りたい人、大学院生で教育に入りたい人のために、副専攻として教育学の勉強をしてもらうことによって、高度の教員を養成するという目的も持っています。

全国の大学には教員養成学部といって教員の養成を第一の目的としているところもありますが、旧七帝大の教育学部はむしろ専門の研究者の養成がこれまでの目的でした。大学院レベルでは、その人達が教員養成大学の先生になっていくというのが主たる機能です。学部卒業生は必ずしも教員にはならなくても、広い意味では教育に関わる職場に就職している人が多いというのがこれまでの姿だったと思います。ただ、東大の教育学部は旧七帝大の中では先頭を切って、大学院レベルの高度な専門職養成を、今非常に重視してやろうとしているということで、それが他の旧七帝大と少し違う所だと思うんです。

―産学連携など、社会とのつながりはどのようなものがありますか?

産学連携といっても、教育学部の場合は基本的には教育システムとの連携が一番重要なわけですから、専門職養成が直接それに関わってきます。あるいは大学の経営者を養成するという意味では、国立・私立の大学にも強く関わっています。そういった形でのつながりは非常に強い学部だと思います。お金が儲かる形での産学連携はそんなに多くはありませんが、例えばベネッセから寄付講座を受けてテストの研究をやっています。ただ基本的に会社というよりは全国の小中学校や教育委員会や、あるいは大学で行っている様々な実践的活動と連携していくというのが、我々の社会との関わり方です。

―学生には何を求めますか?

金子教育学部長

教育学部に来ている学生には、比較的自分探しの傾向を持っている人が多いんです。だから将来何をやりたいかということがはっきりしているというよりは、「今まで受けてきた教育って何だろう」とか、「自分にとって教育って何だろう」とか、色々考え直したいという志向を持っている人がかなり多い。もちろん教育そのものにも興味を持っている人も多いのですが、少し内向的になる傾向があるかもしれません。ですから、私としては、教育というものを中心として、社会や人間全体に目を向けてもらいたいと思います。教育は一つの対象ですが、さっきからも言っているように、教育を考えようとすると、人文科学・社会科学・自然科学など、実は非常に多様なアプローチがあるのです。最終的に教育に収束するというよりは、むしろ教育を一つの視点として色々な見方を見つけてもらいたい。それが、学部教育において我々が一番望んでいることです。


スケジュールの都合により比較的短時間のインタビューとなってしまいましたが、「教育」という狭い分野だけにとどまらず、社会の広範囲に目を向けている、教育学部の本当の姿を垣間見ることが出来ました。

教育学部ホームページ: http://www.p.u-tokyo.ac.jp/