法学部長インタビュー(高橋宏志教授)

※現在、新たな学部長が就任されています。

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東大の学び「学部長インタビュー」の第一弾は、法学部長の高橋宏志先生のインタビュー。法学部は東京大学が出来たときからあり、130年近い長い歴史をもっている学部である。今回はそんな伝統ある学部の現状、そして今後の展望などについて高橋先生にうかがった。


―どのようなことを研究しているのですか。またその目的は何ですか。

高橋先生・1

法学部では「法律学」と「政治学」を学びます。

法律学にはまず、例えば民法の条文がどういう意味を持つかについての探求があります。これにあたっては古代ローマ法以来の約束にのっとらなければならず、勝手な解釈は許されません。次に裁判所において法律を実際のケースに適用する場面の研究があり、裁判所の判決が個別事件に引きずられていないか、または杓子定規であったりしないかをチェックしてそのあるべき姿を探っています。また、憲法改正をするとしたらどのような改正が可能か、そこに限界があるとすれば何だろうかというような立法の追求もしています。

政治学では、政治現象をアカデミズムの手法にのっとり分析、体系化していきます。またヨーロッパや日本の政治思想史や国別の政治研究といった地域研究、そして国際政治の研究などもあります。現代社会がいやおうなく政治によって規定され、逆に現代社会が政治を変えていくというダイナミズムを研究するのが政治学です。

より大きな枠組みで言うと、大きな政治過程のなかに法律学をとらえて研究しているのが法学政治学研究科・法学部の姿です。このように法学部の研究の目的は、法律・政治という側面から社会を学問的に見つめて社会をよりよくすることだと思っています。

―学部全体として何を目指しているのですか。

明治10年の学部創設以来、上記のような教育をしていることに変わりありませんが、若干ニュアンスの変化があったと思います。

この法学部長室には明治10年の卒業証書があるのですが、そこにはお雇い外国人の先生の名前が2人見られます。当時は欧米の法律政治学に追いつけ追い越せというふうな探求がなされていました。しかし現在では、日本の独自性が探求されるようになりました。

「21世紀COE」でいえば、研究科全体で「ソフトロー」の研究に力を入れています。その対極にある「ハードロー」が国家によって強制力が保障されているものであるのに対し、「ソフトロー」は強制力が国家によって保障されてはいないけれども現実として社会の中で「ロー」としての効力があるものを言います。つまり、国家法を越えたものまでも研究の対象になったということです。

21世紀になって社会も変化しました。政治学の観点から言えばソビエト連邦の消失が大きいでしょう。法律学では一面では国家が強くなり、一面では国家が弱くなってきています。日本では今後法律家の数も増えますし、司法がこれまでよりは強くなってくると思います。時代が変わって法律学の流れも変わってきていることを今実感しています。

―教育の特色を教えてください。

高橋先生・2

社会をよりよいシステムにする方法を学ぶということなので、法学部の学生にとっては正直なところ過酷なことが多いと思います。高校までの勉強とはだいぶ違いますし、覚えるのではなく自分の頭で考える訓練をしなければならないからです。グループワークから入っても、最終的には個々人の努力が要求されます。また古代ローマ法以来2000年の歴史がある学問を探求するという重みもあります。そのようなことから、法学部は「法学部砂漠」などと揶揄されてきました。また、大教室での授業が多いため人的ネットワークが作りにくく孤立しやすいことからも「砂漠」と言われました。

以上が一般的に言われた「法学部砂漠」ですが、私たち教員から様々な制度面での改革をしてまいりました。法学部生の数を600人から415人に減らし、カリキュラムも今の学部学生の学習状況に適したものにしました。またゼミを必修化し、半年に1回開かれるゼミのうち卒業までに必ず1回は参加することを義務づけました。また学習相談室を設置したので大学院を出た先輩が学習の仕方、生活、進路、就職などの相談相手になってくれますし、カウンセラーもいますのでそちらに相談することもできます。

このような制度的改革が、学生にとっての「オアシス」になってくれればいいと思っています。しかし権利があっても行使しないと保護されないという有名な法格言があるように、与えられた権利を自分で行使していく能動性が学生には要求されます。「オアシスは自分で探さなければ本当のオアシスではない」ということなのです。

―社会への応用や産学連携など、社会とのつながりを教えてください。

教員の多くは中央政府・地方政府で立法を下から支える仕事をしていますので、これは非常に大きな社会貢献だと思っています。また講演会を開き、例えば最近のものでは「高齢化社会と法」というテーマで、少子高齢化社会のなかで法がどのように変化するかを研究発表します。保険会社から寄付金をもらって保険法についての研究をしたり、朝日新聞から寄付講座をいただいて「政治とマスメディア」について研究をします。裁判官や弁護士と研究会を開いている先生もいます。

例えば薬学部が製薬会社と連携して新薬を開発するというかたちでの産学連携はなかなかありませんが、社会をどう構成していくか、運用していくかについて研究しているという意味では社会との接点は多いと思っています。また朝日新聞から寄付講座をいただいていますが、朝日新聞を批判する精神は失わずに自分の学者としての良心に従って連携することを重要視していますのでやや複雑な産学連携になるかと思います。

ゲーテの『ファウスト』では法律学の研究はファウストの心を満たすことはありませんでしたが、私はそうではないと思います。法律学の探求は知的におもしろい作業です。しかし、私もそうだったのですが、学生時代に法律学の面白さが分かるかというと難しい面はあろうと思います。

―今の学生に求めることを教えてください。

学部長として言うと、先人の業績を深く理解し、自分の頭で考え、自分の言葉で語ってほしいと思っています。それが法学部2年間で私たち教師が学生に期待しているところ、また教育していこうと思っているところです。

また私個人としては、「わからない」ということに対して我慢強くなってほしい、粘り強くなってほしいと思っています。人間が社会を作りあげていくことや、社会のルールを作ることは難しいことです。それを理解するのは並大抵のことではないし、難しいに決まっています。教師も分かっていないこともありますし、大学は安直な答えは出さないところです。それなのに今の学生は我慢強くなく、すぐに正解を教えてほしいと言ってくるように思います。司法試験のための予備校が流行るのはこういうことからだと思います。「こういうふうに理解すればいい、こういうふうに覚えればいい」という答えのようなものを与えてくれるのでしょう。しかしそれは本当の答えではありません。それでは法学部を卒業したとしても法学部で学んだということになっておりません。

私も学生時代は分からないことだらけでしたが、「まだ自分は分かっていないけれども、もうちょっと勉強すればだんだんわかってくるはずだ」と信じて勉強し続けました。わからないということに耐え続けたつもりです。それはまさに山登りのようなものです。「今はまだ見えないけれど、頂上に行けばすばらしい景色が見られるはずだ」と信じて、ごつごつした岩を登っていってほしいと思います。例えばゼミに所属してみると簡単に答えを出すことが実はもったいないことだいうことに気が付くし、半年1つのテーマと向き合って、それについて少し理解したときには自分の成長がわかり、また勉強してみようと思えるはずです。

―他にも何かメッセージがあればお聞かせください。

高橋先生・2

法学部も創設130年を迎えるにあたって「脱皮」しようとしています。今までは卒業生との関係が希薄だったのですが、法人化を期に卒業生との交流会を開いたり、ニューズレターを発行したりと大きく舵を切りました。法学部は卒業生にとっても「オアシス」でありたいと強く願っています。

そのための試みとして、この度「法学部の四季」というDVDを作成しました。法学部の授業、教室、ゼミ、試験、卒業式などといった法学部の一年を収録しています。これから入ってくる学生にも卒業した人にもぜひ見てほしいと思っています。東大出版会に作成していただいたもので、東大のコミュニケーションセンターに行けば手に入るはずです。

これらの取り組みを通じて、法学部は在校生と卒業生、どちらとも実のあるコミュニケーションをとって行きたいと考えています。


とても威厳のある方で、話していただいた内容も大変興味深いものでした。法学部長たる立派な方なんだなというのがひしひしと伝わってくるようでした。法学部として何を目指しているか、学生をどのように教育していくか、しっかりとしたビジョンをお持ちなんだなと思いました。

法学部ホームページ: http://www.j.u-tokyo.ac.jp/

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