教養学部統合自然科学科

2011年に、「越境する知性」をスローガンに学科再編を行なった教養学部後期課程。来る2013年度進学振分けは、新体制発足後初めての進学振分けということになります。

教養学部後期課程は、2012年度進学者までは6学科制(超域文化科学科、地域文化研究学科、総合社会科学科、基礎科学科、広域科学科、生命・認知科学科)がとられており、その中でさらに計22の分科に分かれていました。今回の学科再編は、この6学科22分科を「教養学科」「学際科学科」「統合自然科学科」の3学科にまとめるもので、それぞれ文系・文理融合・理系の性質をもっています。新しい学科とその中の分科・コースは以下の通りです。

  • 教養学科
     超域文化科学分科 地域文化研究分科 総合社会科学分科
  • 学際科学科
     科学技術論コース 地理・空間コース 総合情報学コース 地球システム・エネルギーコース
  • 統合自然科学科
     数理自然科学コース 物質基礎科学コース 統合生命科学コース 認知行動科学コース (スポーツ科学サブコース)

さらに今回の学科再編で、教養学部に新しく「学融合プログラム」が生まれました。学科を超えて研究・教育を行なうという、まさに教養学部が主眼を置く「学際性」を体現するようなプログラムです。学融合プログラムには、「グローバル・エシックス」「バリアフリー」「科学技術インタープリター」「進化認知脳科学」があります。

この夏、「越境する知性」を合言葉に新たな一歩を踏み出す教養学部。「東大の学び」では、今回の再編に寄せて、新しく生まれた『統合自然科学科』の学科長・石浦章一先生からお話を伺いました。


―統合自然科学科は、従来の基礎科学科(※)と生命・認知科学科が統合されて生まれた学科ですね。従来の学科とは何が違うのですか? (※)科学史・科学哲学分科を除く

石浦章一先生

まず、僕の専門の生命科学について言えば、心理・スポーツ科学・生命が一緒になって、人間に関する生命科学を研究できるようになるということが遠い将来のビジョンです。今の東大では、理学部生物学科や農学部を含め、人間について研究しているところはあまりないんです。それに教養学部には、人間自体だけではなくて人間を囲む環境を研究している人も多い。ですからこの統合自然科学科では、人間に関する生命科学をやりたいと思います。

物理や化学については、工学部や理学部とは違う、他の学部でやっていないような新しい分野を創りたい・研究したいという先生が集まっています。例えばナノテク(ナノテクノロジー)でも、ただのナノテクではなくて、コンピューターを利用したナノテクなり、生命科学をナノテクに応用するなりする。あるいは、物理・化学のなかでも複雑系を研究している先生は、最終的には人間の発生のようなものにも応用しよ
うと考えている。このように、今までの科学分野が集まって出来た学科ではなく、新しいものを作り出している学科なのです。

―スポーツ科学は「サブコース」という扱いになっていますが、サブコースとは何ですか?

後期課程に進学する時に入るのは4つのコースのどれかであって、「スポーツ科学コース」というものは無いのですが、4年生になると身体運動の先生につくことができるのです。人間の身体運動やアスリート養成の研究をしたい人のための学部学科が東大には無いわけですよ。そういう人は統合自然科学科に進学して、4年生でスポーツ科学サブコースの研究室に入ればよいのです。

―学融合プログラムはどのように位置づけられているのですか?

まず、統合自然科学科には「副専攻」という仕組みがあります。例えば物質科学コースに入ったとしても、生命に興味があって生物系の授業の単位を取ると、副専攻という形になるのです。この副専攻という制度が、統合自然科学科の売りの一つなんですよ。他に東大で副専攻の制度を設けている学部学科はほとんどありません。

一方、科学技術インタープリターや進化認知科学といった「学融合プログラム」というのは副専攻になりません。ただ、プログラムを修了すれば修了証書はもらえることになります。例えば、統合自然科学科の物質科学コースに入った学生がグローバルエシックスプログラムを取ると、卒業証書には「グローバルエシックスプログラムを取りました」という一文が入るんですね。自分は専攻に加えて別の分野も勉強しました、と言えるようになるのです。

―統合自然科学科のカリキュラム表(※)を見ると、「Advanced ALESS」「科学技術リテラシー論」「知財論」など、理学部では開講されていないような科目が設置されていますね。 (※)「教養学部便覧」による

統合自然科学科は扱う分野が広いでしょう? だからここを出た人は、教養学科の人もそうですが、卒業後の就職先ではマスコミ関係が昔から圧倒的に多いんですよ。だからその関連の授業が必要だろうということで、「科学技術リテラシー論」や「知財論」を作りました。また、英語をしゃべれないとどうしようもないし、授業も何でも英語でやろうということになりつつあるので、ALESSをもう少しレベルアップして、実際の研究に近い講義を行おう、というのが「Advanced ALESS」の趣旨です。

(ALESS:1年理科生必修の英語の授業。簡単な科学実験を行ない、それに基づいて科学論文を英語で書き、数分間のプレゼンテーションを行なうという内容。こちらも参照。)

―卒業生の進路は総合文化研究科への進学に集中しているようですね。

教養学部の理系卒業生の8割が大学院に進学していますが、総合文化研究科に行く人が大多数ですね。

もちろん、理学系研究科に行ったっていいんですよ。そういう人もたくさんいますけれど、そうすると修士1年でイチから研究を始めなければならず、2年間だけで研究をしなければならない。4年生から引き続き3年間、同じ研究室で同じ研究を続けるのとは圧倒的に違うわけです。同じ研究室にいた方が論文の出来もいいし学位も取りやすいとみんな分かっているので、普通は移らないのです。

生物であれば、理学系では動物しか扱っていないけれど、ここでは人間も扱っている。扱うものが全然違うのです。そういう意味で、4年生で人間の研究をやっていた人が、わざわざ他の動物の研究なんてやらないでしょう? だからここの大学院へいくということがほとんどですね。

―とは言っても、統合自然科学科と理学部はやはり似ているように見えてしまいます。では、学生はどのようにして進学先を選べばよいのでしょうか。

理系の東大生は8割が大学院に行く。そうすると、良い先生につかなければならない。学部がいくら良くてもダメで、良い先生につくかどうかが、君たちの将来を決めるポイントなんです。本当はどの学部でもよいわけで、良い先生につければそれでよいのです。

将来良い所に就職したいとか、大学の先生になりたいという人は、ちゃんと論文の出る研究室に行かないとダメだよね。そういう研究室はどの学部にもポツポツと同じくらいの割合で存在するので、基本的にはどの学部に行ってもそんなには変わらないんです。公務員の給料だって、どこの学部を出ていても変わりません。だから、学部の授業を見て、面白そうだと思える授業や研究をたくさんやっているところがあればそこへ行くのが一番いい。進学はそういう風にして決めた方がよいと思いますね。

進振りの点数とは全く関係ないわけですよ、なぜか知らないけれど。何となく進振りの点が高いとカッコいいように見えるけれど、別に就職が良いわけでも何でもなくて、人気学科に限ってドロップアウトする学生が多いなんてこともあるんですね。そういうことは自分で調べないと分からないですよね? 学科に行って、卒業生なり大学院生なりに、進学後のことについてちゃんと聞かなきゃダメですよ。

―最後にいまいちど、統合自然科学科の魅力を教えてください。

石浦章一先生

統合自然科学科というのは結構大きな学科で、先生が100人近くいるんです。つまり、その分色々な分野の先生がいるということですね。生物系ひとつ取っても、身体運動から心理までと本当に幅広い。どの先生についてもいいんですよ。何をやりたいかまだ定まっていない人にとって、ここは良い所だと思いますね。
しかも、ここの先生方はみんな仲が良いんです。隣の研究室と一緒に研究することもよくあります。例えば、他学部には、弟子からそのまた弟子へと百年来継がれていて、外とは付き合わないという伝統を持っている研究室もあるくらいで、研究室間の壁が厚いんです。そういうのと違って、ここにはフレキシビリティーがある。私は理学部や農学部にいたこともあるけれど、ここは研究がしやすいですね。

僕はいまアルツハイマー病を治すワクチンを作っているんですが、ヒトにワクチンを注射すると髄膜脳炎という症状が出るんです。(実験用の)マウスでも同じです。

そこで今度は、食べるワクチンを作ることにしました。つまり、アルツハイマー病に作用する種類のタンパク質を植物に作らせて、その植物を食べればいいということになりますけれど、僕の研究は植物学と関係ないので困りました。そこで隣の研究室の植物の先生に「これできない?」と訊いてみる。すると「簡単にできるよ」との答え。ピーマンに目的のタンパク質を作らせて、それをネズミに食べさせたら病気が治ったんですね。そういうアイデアは考えれば浮かぶけれども、普通は実現しないものです。でもここではそれができてしまいます。いまは農水省と共同で、お米にワクチンを作らせているんです。新聞にも何回か載りました。

それから、こういう研究をしていると、実験用のネズミがボケているのかどうかを調べたいときがあります。そういう場合は、身体運動の先生にお願いするんです。彼らは動物の行動を見ているんです。知能テストとか記憶テストをやったり、ネズミの歩き方を観察したりして、調べてくれるんですよ。
自分の小さな研究室の中だけではできないようなことも、誰かに相談することですぐできてしまう。それが統合自然科学科の良いところだと思います。

それから、カリキュラムが自由であることもここの特長です。統合生命科学コースに入って、化学や物理の授業を取らずに生物だけ取っても卒業できる。生物・物理・化学の全部を少しずつ取っても卒業できる。「マイ・カリキュラム」「オーダーメイド・カリキュラム」とでも言えばいいのかな。授業の数が非常に多いんですね。その分、自分の好きなものを取れるのです。

最後にもう一点、実験実習の指導がしっかりしているのもここの良いところです。3・4年生は、自分の実習力を高めるのに非常に大事な時期なんです。研究っていうのは、実験が上手じゃないとうまくいかないものなんです。何回実験しても同じデータを出せる力がないと、研究者になるのは辛い。でも後期課程で実習をきちっとやっておくと、あとはどんなテーマであろうとできるんです。ヒトの病気を研究するにしても、植物を研究するにしても、DNAの扱いさえできるようになれば何でもできてしまいます。それに就職するにしても、ちゃんとしたデータの出ている論文を書けたかどうかで実験の能力は見抜かれてしまいますからね。真面目に研究さえやっていれば、博士号まで取得したのに就職が無いなんてことは絶対にありません。

統合自然科学科は実習の時間も長いし、色々な分野の先生がいるから、色々な実習ができるわけです。動物系の学科だと動物の実習しかないし、植物系に進めば植物の実習しかできないけれど、ここでは、動物・植物・DNA・人間など満遍なく実習ができる。そういう面で、3・4年生の間に「研究力」を高めることができるというのもここの学科の利点ですね。

―ありがとうございました。


リンク

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