情報

2006年度から、1年夏学期の必修科目として「情報」という授業が始まった。今回は、その授業を担当されている玉井哲雄教授にお話を伺った。

「情報」という科目について

玉井先生

「情報」は、2006年度からの新カリキュラムの中で始まった科目です。情報というものは、現代に生きる人間にとって必須の道具ですよね。それについての基礎的な考え方を、必修科目として東大に入学する学生全員に学んでもらう、というのがこの科目の狙いです。

1993年度から2005年度までは「情報処理」という、同じように全学必修の科目がありましたけれども、その科目はどちらかというといわゆるコンピュータリテラシー、つまりコンピュータをどう使うかに重点が置かれていたんですね。「情報処理」が始まった頃はMosaicという最初のブラウザが出始めたころで、メールやインターネットの使い方や、理系に対してはプログラミングも教えていました。しかし、2003年度から高校で「情報」という科目が必修科目として取り上げられるようになって、高校までにそういう勉学をしてきた学生が2006年度から入学するというので、それに合わせてリテラシー的なものよりも教養としての情報学という点に重点を置こう、ということで始めたのが「情報」という科目です。

もう一つ新しく「情報」という科目にした大きな狙いは、それまで先生によって講義内容がバラバラなところがあったのをなるべく一緒にして、全員が共通の勉学をできるようにしようということでした。そのために共通の教科書も作ったし、授業用のスライドや演習問題も各先生が工夫していいんだけど、標準的に用意したものがあるのでよければ使ってくださいという形にしました。試験も共通問題を必ず使った上で、それに各先生が何問か独自の問題を出題しても結構です、という形になっています。ただ、1年目は文系理系によらずなるべく共通で、ということを強調しすぎて、学生からは難しいという反応が多かったんですよね。あるいは先生方も「必ずこの教科書でこのスライドでこういう順番でやってください」というと、工夫の余地がないからあまり情熱がわかない(笑)。文系も理系も同じように、というのは理想ではあるけれど、現実はなかなかそうはいかないと反省して、2007年度が始まる前にだいぶ検討して、授業の進め方を先生の裁量に任せたり、授業の内容も文系と理系で多少変えたりしました。

授業の内容

玉井先生

概念的には、「問題解決・システム的な側面」「情報が社会にどう関わるか」「情報と人間との関わり」と大きく3つに分けられると思います。この3つを総合して学ぶというのが「情報」の趣旨ですね。

問題解決やシステム的な側面としては、情報は通信、コミュニケーションの問題なので、情報をどうやってやり取りするのかという点や、そのために情報をどう表現するかを学びます。あるいは問題を解くためのアルゴリズムやプログラミングという考え方、ハードウェアとしてのコンピュータの基本的な構造なども学びますね。社会的な側面としては、知的財産権などのような、情報が社会の中でどのような位置づけにあるかといった問題や、情報倫理や情報格差の問題などを扱っています。情報システムが社会の中でどのように使われているかということも社会的な側面ですね。その他に、情報と人との関わりとして、man machine interfaceとかhuman interactionと言われる、人とコンピュータとの間のやり取りについてやっています。授業は全部で13回で、標準的にはそのうち8回くらいが講義、5回くらいが演習、という形でやっていますね。

講義で心掛けていること

玉井先生

先ほどから強調しているように、この科目は情報の基本的な概念や考え方、人間社会に関わる情報は全体的にはどういうものかを理解してもらうことが主眼にあるので、その部分は主に講義でなるべく丁寧にわかりやすく説明しようと心がけています。それでも、やっぱり聞いてるばかりでは飽きるだろう、ということで演習で手を動かしながら理解してもらうようにしています。

私は比較的理系を担当することが多かったんだけど、2007年度は文系を担当することになって、なかなか文系の授業は難しいなと思っています。文系と理系の違いはあまり意識しないようにしているんだけど、学生の授業評価アンケートをみると、授業に対する関心のようなところは、明らかに差があるんですよね。だから、あまり理系的なものではなく、比較的敷居の高くない演習を盛り込んだりはしています。

今の学生は、直接的に役に立つことに関心があるようで、極端なところでは「情報なんだからWordとかExcelとか教えてもらえばいい」なんて声もあるようですが、それはカルチャースクールで……(笑)。東大の教養学部でやるべきことではないというのが我々の考え方なんですが、学生の受け入れ方とは若干ぶつかりがあるところではあります。もちろん、情報技術を習得して実際に役立たせることは重要なファクターだけれど、あらゆる学問は実践的な部分と、理論的、基盤的な科学としての形との両面ありますよね。そのバランスは今考えているところです。

情報を学ぶ意義

玉井先生

一つは、実際上の問題があると思います。これから皆さんが専門の勉強を進めていくにしても、あるいはその先いろいろな仕事に就くにしても、何らかの形で情報に携わっていくことになると思うので、その基本的な概念が何で、どのように成り立っているかということを理解するのは必須だと思うんですね。そして、基本的な理解のもとで、情報を使ってどういう行動をしていけばいいのかを理解してもらいたいと思っています。

もう一つは、情報がさまざまな学問分野と関わっているということがあります。理系では、情報科学やシステムをどう作るかというエンジニアリングもあります。法律の分野だと、知的財産権のほかにも放送法や個人情報保護法など多様な情報法がありますよね。経済的な面で言えば、現在では情報自体が大きな財になっているかもしれないし、情報産業も大きなものになっています。あるいは、社会において情報が生み出す格差の問題もありますね。どういう分野でも情報が学問の核の一部になっているので、教養学部の学生にそういう学問のベースとして情報というものを学んでもらいたいですね。

現在は情報技術を直接使うことが多くなってきているので、もちろんそれも大事なんだけれど、人は情報を作り出してやり取りして文化的なものを生み出しているので、そういう視点から情報を学ぶというのは理系だけではなくて文系にとっても重要じゃないかなと思います。なかなかそういう想いは伝わらないところもあるんだけどね(笑)。

学生に対してのメッセージ

玉井先生

教養学部の目的としては、基礎を作るということが一つあるけれど、同時に幅広くいろんなことに目を向けて、問題に対してどのように対処したらいいかということを身につけるのも大きな目的だと思うんですよね。理系の人が文系の授業を受けることや、その逆もカリキュラム上想定されているし、情報なんかはその間に立つような科目として存在意義があると思うので、せっかくの教養学部という仕組みを生かしてほしいと思いますね。

そういう意味では、直接将来の役に立つことだけをやろうとするんではなくて、いろんな本を読んだり、いろんな人と交流したり、そういうことに力を注いでほしいという気がします。進学振り分けのために点数を上げることに奔走するというような傾向も学生の中になくはないですが、もちろん進学も大事だけれど、それだけではせっかく幅広くいろんなことをやれる機会なのにもったいないという気はします。あまりに漠然としすぎていて方向を見失ってしまうこともあるかもしれないけど、逆に教養学部の存在を生かすように考えてもらえばいいと思いますね。

取材後記

まだ新しい科目ということもあり、授業の進め方は検討を重ねているようです。筆者も取材の後「情報の授業を受けてみてどうでした?」と尋ねられました。今後も学生の声を反映してよりよい授業となっていくことと思います。