韓国朝鮮語

日本の隣国、韓国・朝鮮で使われている韓国朝鮮語。今回は、「韓国朝鮮語」の授業を担当されている月脚達彦准教授に、韓国朝鮮語の特徴や授業をする際に心がけていることなどについてお話を伺った。


1.韓国朝鮮語について | 2.学生に対して


先生自身が韓国朝鮮語と出会ってから現在に至るまで

月脚達彦 准教授

私が初めて朝鮮語と出会ったのは中学生の時です。当時、日本のトランジスタラジオの性能がぐんと上がり、それまで専門の機関が使っていたような性能のラジオが安く手に入るようになり、親にラジオを買ってもらって短波放送を聞くようになりました。その頃、ラジオを聞くのが趣味という中学生・高校生が増え、その多くはヨーロッパやオーストラリアの日本語放送に関心が高かったのですが、僕は中国・北朝鮮・ベトナムなどの社会主義国から発信されてくる日本語放送に非常に驚いてしまったのです。自分の住む日本の近くに、自分の全く知らない世界があることに驚き、中国語や朝鮮語などを勉強してみたいと思うようになったのが、最初のきっかけです。

朝鮮語を本格的に勉強し始めたのは、東京外国語大学の朝鮮語学科に入ってからで、もう27,8年になります。大学2年生までは語学中心の勉強だったのですが、卒論に向けた勉強を始めるとき、日本と韓国・朝鮮との間で大きな問題になりがちな近代史について自分の力で調べられるようになりたいと思い、歴史で卒論を書きました。今でこそ東大をはじめとする多くの大学で、必修外国語の選択肢として朝鮮語をおいていますが、僕が大学生の頃は大学で朝鮮語を勉強するのはまず無理で、朝鮮語や朝鮮の歴史を勉強してもお先が真っ暗でした。しかし、そこで妙に意地になって自分のやりたい勉強をしたいと思い、当時の東京都立大学の大学院へ進学して朝鮮史を専攻しました。そして博士課程3年生の時に、当時の文部省のアジア諸国等派遣留学生という制度で奨学金をもらい、1990年から92年まで2年間、韓国のソウル大学で勉強しました。

留学から帰ってきた次の年に非常勤講師の仕事を始め、94年には大学院の学籍を抜いて1週間に5つの大学で11コマの授業をして、95年に東京外国語大学に採用されました。そして2006年4月から駒場に移ってくることになり、今は教養学部前期課程の「韓国朝鮮語」の授業の他に、後期課程地域文化研究学科の韓国朝鮮地域文化研究コースで「朝鮮近代史」という授業を担当しています。大学院では、地域文化研究専攻で韓国・朝鮮の歴史に関心を持っている院生達と一緒に勉強しています。

地域文化研究における韓国朝鮮語の重要性について

月脚達彦 准教授

朝鮮語を勉強したからと言って、何か実利に結びつくことはあまりありません。しかし、なんと言っても韓国・朝鮮は日本に一番近い隣国ですから、これまでの日本と朝鮮半島との関係を知ることは、日本のことを考えるために十分に価値のあることなのです。特に今まで日本では、欧米との比較でもって日本というものを考えてきましたが、隣国との関係や比較の中で、日本とはどういう国か、日本人とはどういう人達なのか、というのを考えることが出来るのは重要なことだと思います。

ここで、大変不幸なことなのですが、近代、朝鮮は日本によって植民地支配を受け、韓国・朝鮮の人々が日本語を話せるという環境にあり、多くの日本人は朝鮮語が出来なくても韓国・朝鮮のことを調べたりしてきたのです。しかし、今や韓国・朝鮮をはじめとしたアジア諸国でも学問・研究が大変進んでいて、対象とする地域の研究者達の研究成果を当然読まなければいけないし、私のように歴史をやるときは実証性が大変重要なので、正確に資料を読める語学力を持っていないといけないわけです。ですから、自分が研究対象とする地域を本当に理解するには、その地域の言葉に対するきちんとした理解や正確に言葉を運用する能力が必要なのです。

言語の呼び方「韓国朝鮮語」「韓国語」「朝鮮語」について

言葉の呼び方が色々ある一番の理由は、極めて政治的な問題によるものです。朝鮮半島には分断国家が存在していて、一方では国号に「朝鮮」を使っていて、もう一方では「大韓」「韓国」という言葉を使っています。そのために、「朝鮮語」という場合には韓国側から批判が出てきて、逆に「韓国語」というと北朝鮮側から批判が出てくる、といったようなことが一番の直接的な理由です。NHKが語学講座を作るときも、「朝鮮語」にするか「韓国語」にするかで結局結論が出ず、言葉の名前を言わずに「ハングル講座」と文字の名前で呼んでいます。外国語学部のある二つの国立大学、東京外国語大学と大阪外国語大学では、大学での講座名として「朝鮮語」をずっと使ってきました。大学で朝鮮語の講座が増えるのは80年代後半以降ですが、その過程で色々な言葉が使われるようになりました。東大では「韓国朝鮮語」という言い方をして、大学によっては「韓国語」や「コリア語」という名前を使うところもあるのですが、やはり現実の朝鮮半島情勢に左右されるところがあって、どれが良いという決定的なものはないと思います。

ただ個人的には、自分が担当している授業名は「韓国朝鮮語」なので、授業に関連するときは「韓国朝鮮語」と呼びますが、それ以外のときは、「朝鮮語」と言うようにしています。「韓国語」と言うと、解放後の1948年に成立した大韓民国の言葉という意味が加わってきます。政治的に偏らず、時代を通して日本列島の隣にある半島の地域を呼ぶには「朝鮮」という言葉が良いと私は思っています。歴史的に見ても、初めて中国の歴史書などに朝鮮半島の国が記録されるときは「朝鮮」という言葉で出てくるわけで、私は、学術的に日本列島の隣にある半島の地域を呼ぶときは「朝鮮」と呼び、そこで話されている言葉は「朝鮮語」と呼ぶようにしています。

韓国朝鮮語の特徴と学びやすい点や難しい点

月脚達彦 准教授

朝鮮語には日本語と同じように、日本の大和言葉に対応する固有語と、漢字語と、近代以降に入ってきた外来語とがあります。固有語と外来語はハングルでしか書けず、漢字語は漢字でもハングルでも書けます。北朝鮮ではかなり早い段階に全てハングルだけで書くように統一し、南の韓国でもはじめは漢字・ハングル混ざり文を使っていましたが、今は基本的にハングルだけで書きます。しかし、最近は漢字で書けない名前を子供につけることも増えてきているものの、基本的に韓国人・朝鮮人の名前は漢字でつけますし、表面的には見えなくても、決して生活のなかで漢字の地位が無くなってるわけではありません。

学びやすい点は、日本語と文法的に似ているということです。基本的に語順は日本語と同じです。また、歴史的経緯からすれば手放しに喜べることではありませんが、日本語と同じような漢字語が多く、日本語と共通する語彙が多くあります。近代的な様々な概念などは、一旦日本で出来た漢字語を通じて朝鮮半島に入っているのです。お互いに共有する漢字語があり、特に内容が専門的になればなるほど、漢字語が多くなって分かりやすくなるという面があります。

しかし、日本語に比べて母音の数も子音の数も多く、発音は難しいです。また、確かに論説文や専門的な論文を読む場合には日本語と共通する漢字語が多くて読みやすいのですが、小説などになると他の外国語と同じ程度の難しさを持ちます。きちんと韓国の文学作品などを味わおうというようなレベルまで語学力を持っていくのは大変なことです。

それでも、新聞を読んだり自分の研究のために専門書を読んだりというレベルへは、他の外国語よりもかなり早く到達できるというのが、日本語母語話者が朝鮮語を勉強する際の利点ですね。


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