認知脳科学

講義紹介の第3回目となる今回は、総合科目として開講している「認知脳科学」を紹介する。この講義を担当している村上郁也助教授にお話を伺った。


1.認知脳科学という講義について | 2.駒場の学生に対して

村上先生


「認知脳科学」で扱う領域

この講義は、「認知神経科学」と呼ばれる学問分野について、簡単に解説をしていこうというものです。
「認知神経科学」とは、これまで「神経科学」「心理学」「情報科学」と呼ばれてきた学問の共通部分にあたるもので、
私たち人間が見たり、聞いたり、感じたり、考えたりするということが、生体のどのような処理によって実現されているのか、ということを研究する学問です。
この講義ではその中でも特に、私たち人間がものを見る仕組みに絞って、一学期の講義をしています。

なぜその内容を選んだのかというと、私の研究室では視知覚(視覚情報処理)の実験をしているので、専門の分野に合致しているからということと、
「百聞は一見に如かず」という言葉のとおり、大学に入りたての学生の方たちとインタラクションする上で、一番わかりやすい題材ではないかと考えたからです。

また、「認知脳科学」というと理系っぽく聞こえてしまいがちですが、扱っているのは、
「知覚心理学」と呼ばれている分野でもあります。心理学といえば文系科目ですから、「認知脳科学」は決して理系だけの科目というわけではないのです。
それは学問の歴史を考えればわかるとおりで、古くはアリストテレスやデカルト、ジョン・ロックといった人たちが、
見たり、聞いたり、考えたりということが生体においてどのように処理されているのか、ということについて考えていたわけです。
そのような人たちが考えていたことは、今は「哲学」と呼ばれ、文系のものとして扱われるわけです。
一方で、19世紀以降、神経についてのことが実験でわかるようになり、脳の仕組みも科学的なアプローチで実験できるようになったので、そういう意味では「認知脳科学」は理系の科目でもあるわけです。
実際の研究の現場でも、文系の先生と理系の先生が同じ学会で同じテーマについて話し合ったりしています。

講義をする上での工夫

講義をする上で工夫していることは、大きく分けて二つあります。一つは「オンライン性」、もう一つは「エンターテインメント性」です。

まず、「オンライン性」についてですが、前期課程の学生の方々はサークルや語学の講義、通学や一人暮らしの生活で忙しく、講義の復習をしようとしても眠たい目をこすりこすりという方も多いと思うんです。
なので、講義の中で話した内容は、講義の中で自分のものにしてほしいんですね。
そのためには、伝えたいことを一番良く伝えられる形で伝えていく必要があるわけです。
そこで、プレゼンテーションのスタイルを統一し、「これだけは覚えてほしい」という要点を凝縮して一行の形でまとめることで、テレビ番組のような講義になるようにしています。
こうすることで、伝えたい内容がその場できちんと伝えられると思うんです。

もう一つ、「エンターテインメント性」ということについてですが、これは、「本来おもしろいものを、おもしろく伝える」ということです。
全ての学問は、本来おもしろいものであるはずです。そこで、おもしろいものを伝えるためには一番おもしろい方法で伝えよう、と考えたわけです。
具体的には、錯覚などといったビジュアル素材、デモンストレーションを多用したり、毎回の講義に必ずサプライズを一つ二つ用意したりするということがこれにあたります。

村上先生

この二つに共通するのは、「何かを教えようという気にはなっていない」ということです。学問を授けるというよりは、科学番組の司会をしているというつもりでやっています。
テレビの視聴率を上げるためには、ちゃんとその場で内容が伝わらないといけないし、つかみもなくてはいけない。そういうことを意識して講義をしています。

実は、講義で見せる錯覚のデモンストレーションなどは、作るのに膨大な時間がかかっているのですが、
講義でそれを見せて、学生の反応を見ていると、時間をかけた分だけちゃんと響いているなぁと思うことが結構あります。
そのときには“超うれしい”(笑)ですね。

専門分野と講義との連関

私の専門の分野は、先ほどの話にも少しありましたが、「視知覚の情報処理の心理物理学」というものです。
心理物理学とは、人の認知の様子を外から知るために用いられる方法です。
視知覚で言えば、豆電球などの光を強めたり弱めたりして、見えるか見えないかを測定していくことで、人間を光センサーとして単純化して、そのパフォーマンスを知ろう、という方法などがそれにあたります。

講義では、専門の研究をする上での基礎の部分を抜き出し、その中でもいちばんおもしろい部分、つまり「ものの見え方ってなんて不思議なんでしょう」という部分を取り出して、
できるだけ簡単に、大学一年生の方にもわかるように話しています。
そのため、講義の話は基礎的な部分が中心となっていますが、古めかしいデータは使うまいと思っているので、出来るだけ新しく、
そして出来るだけ自分が関わった研究成果を使って説明をしようと心がけています。


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