囲碁で養う考える力

東大のゼミ授業の中に、「考える力を育てる・コントラクトブリッジ」と並んで、知的ゲームを通じて勉強するという特徴的な「囲碁で養う考える力」という講座があります。
囲碁というゲームは2000年以上前から東アジアで盛んに行われてきたボードゲームであり、現在は東アジアのみならず、現在は世界にも少しずつ普及しています。
囲碁が2000年という時を経ても盛んに行われているのは、ルールが簡単で分かりやすいけれども、奥深さを兼ね備えているからなのでしょう。

囲碁は自分と対局相手の2人がマス目に交互に石を打っていき、自分の石でマスを囲んでできるだけ広い陣地を作る、というゲームです。
最も一般的な19路盤には、19×19という非常に多くの選択肢があり、また2人で交互に打つために、その手の組み合わせは莫大なものです。
それ以上に、盤全体の情勢や、局所的に見た時の優勢劣勢の見極め、理想の形作り、相手の邪魔など、色々なことを考慮しなくてはなりません。
このようなことを初心者なりにも考えることで、囲碁を通して分析力・判断力・集中力・礼儀などを学ぼう、というのがこの講座の理念です。

さて、この講座の最も大きな特徴として、日本棋院の全面的な協力があります。
日本棋院というのは、日本の囲碁界を取り仕切る機関であり、囲碁のプロ棋士のリーグ戦を行ったり、囲碁の普及を目指して様々なイベントを行ったりしている機関です。
具体的には、プロ棋士が大学に教えに来てくれたり、日本棋院の見学をさせてもらえたり、ネット上で囲碁を行うためのアカウントをもらえたり、また最終授業時の段位認定をしてもらえたりします。
約40人の学生に対して、一番多い時では先生2人、TA2人、プロ棋士3人という非常に豪華な授業が行われることもあります。
この日本棋院の強力なバックアップがこの講座を可能にしていると言っても過言ではないでしょう。

基本的には、授業前半が講義形式、後半が学生同士の対局です。
講義形式のところは、毎週プロ棋士の石倉昇九段、黒滝正憲七段、吉原由香里五段を交代で招いて、囲碁のルールや定石、対局でのマナーなどを解説してもらいます。
授業の後半では、実際に学生同士で対局を行います。
はじめのうちから19路盤(19×19マス)では難しいので、6路盤から始めて9路盤、19路盤と段々に大きい盤で指すようになります。
19路盤の対局の中でも、いきなりゼロから打つのではなく、はじめのある程度のところまでの指し手が決まっている「決め打ち碁」を行います。
他にも、受講者はネット上で対局ができる「幽玄の間」が利用できます(授業期間中のみ)。
これらの講義と実践対局を通して、だんだん囲碁を打てるようになります。

また、実際に囲碁が打てるようになるばかりでなく、囲碁そのものについても理解を深める機会があります。
それが市ヶ谷にある日本棋院会館の見学です。
この施設には、囲碁の歴史を知ることのできる囲碁殿堂資料館や、プロの対局に使われる部屋、一般の人が自由に対局できる碁会所などがあります。
囲碁殿堂資料館では、貴重な資料とプロ棋士の石倉さんの解説を通して、囲碁の長い歴史を学びます。
囲碁と全く関係のなさそうな江戸幕府が囲碁の存亡と大きく関わっていたという話は非常に興味深いと感じました。
その後、タイトル戦なども行われる、非常に格式高い幽玄の間を見学することができます。
都会にありながらとても静かで落ち着いた雰囲気であり、また厳かで歴史ある空気も感じさせます。
この見学で、囲碁の歴史を知りプロの生の姿を垣間見たことで、囲碁に対するモチベーションが上がったのは言うまでもありません。

毎時間の講義と実践対局を重ねると、受講者は19路盤での対局ができるようになります。(囲碁は明確なゲームの終わりがなく、両者の同意により終局します。この判断ができるようになると、囲碁ができると言ってもいいでしょう。)
最後の授業では、置き石というハンディキャップ付きで、プロ棋士の黒澤さんと学生2人が交互に打つ対局をしました。
その対局を同じくプロ棋士の石倉さんと吉原さんが解説するという、日曜日の教育テレビを生で見ているような、非常に豪華な体験をすることができました。
人の対局を見ることは、手が偏りがちな初心者にはいい経験となる上、解説のおかげでプロの考え方も分かり、すごく参考になりました。
また、その解説自体も面白いのですが、それを対局者が聞いているというシチュエーションも面白く、この学期の授業の中でも特に印象的な授業となりました。